琅琊榜

琅琊榜西遊記 6 (『琅琊榜』)

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すっかり体調を崩した梅長蘇、果たしてどうなる?

 「こ……、この密道はこんなに長かったろうか、蒙大哥……」
 ぜえぜえと荒い息をしながら、梅長蘇が言った。その脇へ手を差し入れて支えてやっていた蒙摯がため息をつく。
 「それはお前の足がろくに前へ進んでおらぬせいだ、小殊」
 「な、何を言うのだ、わたしはこの通りしっかりと……」
 蒙摯の顔を睨みつけようとして、そのままふらりと梅長蘇の身体が傾く。
 「うわ、小殊。しっかりしろ!」
 蒙摯は梅長蘇の身体を支えなおし、思わず後ろを振り返った。
 「藺閣主、見ておらずにどうにかせぬか!」
 藺晨は面倒そうに指で耳を掻いた。
 「わたしの手には負えん。なんとかにつける薬はないからな」
 その言いように、蒙摯は太い眉を寄せた。
 「しかしだな。大体おぬしが先日の舞台のあと、さっさと琅琊山へ帰ってしまうからいかんのだ。おぬしがそばについておれば、小殊がここまで弱ることもなかったろうに」
 藺晨が呆れたようにちらりと蒙摯の顔を見る。
 「わたしがいたところで同じだ。わたしはこやつのお目付け役ではないし、晏太夫でどうにもならぬことは、わたしとてどうにもできぬ」
 「それはそうかもしれんが……」
 蒙摯は不服げに口をとがらせて、梅長蘇に肩を貸しながら歩き出した。背中で藺晨の声を聞く。
 「長蘇と靖王がいちゃいちゃでれでれしているのを、いつまでもそばで見物いるほど、わたしは酔狂ではないぞ? それに、わたしには急ぎの仕事があったゆえな」
 「急ぎの?」
 問われて藺晨はふん、と笑う。
 「おぬしが禁軍大統領であるように、わたしの本分は琅琊閣の閣主だ。琅琊閣の仕事を優先するのは当然であろう?」
 「む……」
 返す言葉もなく、蒙摯はしかたなく黙って密道を進んだ。
 



   * * *



 
 「あら、わたくしの芭蕉扇はどこへまいりましたかしら」
 稽古場で般弱がきょろきょろとあたりを探している。
 「ん? ああ、あそこで河童が使っておるではないか」
 誉王が藺晨を指さした。
 藺晨は、不機嫌な様子で芭蕉扇をはためかせている。
 誉王はつかつかと歩み寄った。
 「これ、河童よ」
 「誰が河童だ!」
 即座に返ってきた言葉に、誉王は一瞬口をあいたまま呆然とした。それからそばにいた梅長蘇を振り返る。ついさっきまで息も絶え絶えな様子であった梅長蘇も、誉王の前とあって気丈に背筋を伸ばしていた。
 「―――蘇先生。この者は今、誰に向かって口をきいたのだ?」
 生まれてこの方、そのように横柄な口をきかれた経験のない誉王である。
 「……申し訳ございません、誉王殿下。礼儀を知らぬ者ゆえ、……この場で手打ちにしていただいても結構です」
 梅長蘇が弱々しくこうべを垂れた。誉王の眼から見ても、今にも倒れそうな顔色である。
 「む……。蘇先生のそのしおらしい心根に免じて大目に見るが……、河童よ」
 「河童ではないと言っている」
 また反抗的な態度で返されて、誉王が不機嫌な顔になる。
 「河から現れた妖怪であるからには、河童であろう」
 「河は河でも流砂河は水の流れる河ではなく―――」
 立て板に水のごとく喋り始めた藺晨に、誉王がますます苛立ちを募らせてゆく。 

 景琰は梅長蘇の背中を抱いて、そっとその場から引き離した。
 「兄上の相手は藺閣主にしていただくとして、蘇先生はあちらで少し横になられたほうがよい」
 「……忝う存じます」
 既に一人で立っているのもつらいと見えて、梅長蘇は素直に景琰の肩に寄りかかった。景琰の私房へ辿り着いたときには、膝から頽れかかる。
 慌てて支えた景琰が、自分の床榻へといざなった。
 「さあ、休まれよ」
 梅長蘇は困ったように顔を背ける。
 「殿下のお褥になど、勿体のうございます」
 「何を遠慮しておるのだ。休めるときに休んでおかねば、次の舞台までに回復せぬぞ。そなたの三蔵なしには成り立たぬ芝居だということを忘れてもらっては困る」
 抱き上げられて、梅長蘇はうっとりとされるがままになった。
 


   * * *



「師父……。この悟空が、きっとお守りいたしますぞ……」
 景琰の声に、梅長蘇は目を覚ました。
 牀台の脇に座ったまま、景琰は転寝している。
 「景琰……、風邪をひくぞ」
 そっと声をかけた途端、むくっと景琰がうなだれていた頭をもたげた。
 「小殊ー!」
 「えっ!」
 梅長蘇は慌てて身を起こそうとしたが。
 がくっ、と景琰の頭がまた垂れる。
 「―――なんだ、寝言か。ややこしいやつめ」
 ほっと溜息をついて、梅長蘇は今一度枕の上へ頭を戻した。
 寝床は景琰の匂いがする。
 幸せな心持ちで布団にくるまって、梅長蘇は景琰の顔を見ていた。
 「―――蘇哥哥!」
 不意に、飛流が飛び込んできた。
 「飛流。どこから入った? 殿下の私房へ勝手に入っては駄目ではないか」
 「だって……。見て、蘇哥哥」
 パカッ、パカッ、と言いながら、飛流は背後へ向けて鋭い蹴りを披露して見せた。
 目をこすりながら、景琰が顔を上げる。 
 「ああ、殿下。申し訳ございません。飛流が勝手に……」
 いや……、と言いつつ、景琰は不思議そうに飛流を見る。   
 「飛流は何をしておるのだ?」
 「はあ。後ろ蹴りの稽古のようで」
 梅長蘇が体を起こして苦笑いする。
 「後ろ蹴り?」
 「馬の役ですので」
 景琰はようやく合点のいった様子でうなづいた。
 「ああ。此度は飛流も舞台を務めるのであったな」
 「後ろ蹴りで牛魔王をやっつけるのだと張り切っておりますが……」
 「それは頼もしい」
 笑った景琰のそばへ、飛流がちょこんと膝をつく。どうやら、景琰のことは敵ではないと認めたらしい。
 「牛魔王をやっつけたいのなら、哪吒太子の役はどうかと申したのですが」
 梅長蘇がそう言って苦笑すると、
 「蘇哥哥のそばにいられない」
と頬を膨らませた。
 首を傾げた景琰に、梅長蘇が説明する。
 「哪吒は天界におるゆえ、共に旅は出来ぬのだと教えましたら、それはいやだと」
 こくこく、と飛流がうなづいた。
 「それゆえ、玉龍に」
 「馬か」
 景琰が笑うと、飛流はぐいと胸を張った。
 「蘇哥哥のそばで守る!」
 どんと胸を叩いた飛流の頭を、景琰が撫でた。
 「飛流は忠義者だな」
 その様子を見て、梅長蘇が微笑む。
 「だいぶ、殿下に懐いたようですね。頭を触らせるのは蒙大統領ぐらいだったのですが」
 それを聞いて、景琰が首を傾げた。
 「藺閣主はどうなのだ。飛流にとっては、そなたと藺閣主が両親のようなものだろう」
 「なっ、何をおっしゃいます!」
 途端に梅長蘇が牀台から身を乗り出した。
 「まるでわたしと藺晨が夫婦のようなおっしゃりよう、人聞きが悪いではありませんかっ」
 言い立てた拍子に、げほげほと咳き込んだ梅長蘇に、景琰のほうが驚く。
 「あっ、いや、そんなつもりで言ったのでは……」
 景琰に背中をさすられつつ、肩で息をしながら梅長蘇が反論する。
 「冗談ではありません! 藺晨は飛流にとっても天敵のごとき者ですから……」
 「そ、そうか。わかったから、そう興奮せずに横になるがよい」
 困惑して景琰は梅長蘇の身体を横たえようとするが、謀士の細い指は主の腕を強く掴んでいる。
 「で……殿下には、どうか、くれぐれも誤解なきよう……」
 蒼白な顔面に必死の形相を浮かべる梅長蘇を、景琰は宥めた。
 「わかったわかった。よいから休めと申すに」
 謀士を寝かしつけて、景琰は小さくため息をついた。
 (―――蘇先生は病で心までお疲れなのだな……)
 次の舞台に不安を感じずにはおれぬ景琰であった―――。   




   * * *



―――次回予告――― 



 「小殊、やはり今からでも代役を……」
 「……そうはいかぬ、わたしがいなくては……}
 「しかし、その身体では―――、ああっ、小殊!」
 「……なに、錫杖に縋ってただ立っているだけでも、誉王への牽制にはなろう……」

 果たして梅長蘇の身体は舞台に耐えられるのか!?
 次回、乞うご期待!!
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~ Comment ~

げほんげほん

遥華さま

笑いすぎて、咳がひどいです。
遥華さん、責任とって下さい~(笑)

もう、宗主が「ドМのド変態」にしか見えなくなりましたよう(>_<)
私も、琅琊榜中毒の末期症状ですね~。

浮気(笑)が発覚しかけた宗主の、大変な慌てぶり!
そして、何も気づかない、靖王の朴念仁ぶり!
不機嫌な藺晨!(行けー、嫉妬にかられて押し倒しちゃえー!)
遥華さん、グッジョブ!!

藺晨にも美味しい出番をあげて下さいな。
そして、藺誉ですか…仲良くなるとかCPの要素が、私には見つけられません(号泣)
藺晨は、誉王殿下の優雅さや気障な貴公子ぶり、好きではないように思えるのですが。
口喧嘩くらいにとどめて下さると、藺蘇至上主義のワタクシには有り難いです、です…(動揺激しい)。

弘文学院、楽しいです、気楽に観られますね。
ウォレスさんの場面で、「…何しに出てきたの…」と、画面に思わず言ってしまったのは私です(笑)
もう南の島に旅立っちゃいました。
十弟は、最後にはいつもいい子になるんですよね。
そして、ジャクギと同じように、奥さんの尻に敷かれるんだわ。

明日も楽しみにお待ちしております。

>>Rintzuさん

あははは、この話、わたしはもう宗主はとても可笑しい人として書いてるつもりなんですが、
健気な人としてとらえちゃうと、なんとなくニュアンスの違う話になりそうですよね。
いやいやご心配なく、このかた、これで結構幸せだし、
死にかけがデフォな感じなんです(←ヒドい)、って言いたくなってしまう。
あくまでもこの話の中ですけどねww
で、藺誉は、やはり虚誕に需要が少ないようですね・・・・・・ww

弘文学院もラストまでお楽しみくださいねー♡
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