琅琊榜

琅琊榜西遊記 3 (『琅琊榜』)

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いよいよ、舞台が始まりましたよ……

 言皇后誕生祝の宴もたけなわ、梁帝は甚く機嫌がよい。
 主席に梁帝と言皇后が座し、梁帝の傍らには越貴妃が侍っている。静貴妃もまた、皇帝の後ろに控えてその肩を揉んでいた。
 「父上。いよいよ今宵最大の見世物が始まります」
 おもむろに立ち上がった誉王が、優雅な仕草で父皇に一礼してそう言った。
 「ほう。なんだ?」
 興味津々の父皇に、誉王はにっこりと微笑む。
 「景琰が主演を務める舞台劇にございますれば、どうぞ御覧になってやってください。母后の誕生祝にと、さぞや景琰渾身の熱演を御覧に入れることでしょう」
 「ほほう。あれにそんな遊び心があったとはな。大方そちの入れ知恵であろうが、さすがは景桓、弟を引き立ててやろうと骨を折ったな。あとで褒美を進ぜる」
 「これは有り難き幸せ」
 恭しくこうべを垂れた愛息に、梁帝は目を細める。
 「あの武骨者めが、そちの心遣いをぶち壊しにせねばよいのだが」
 「景琰とていつまでも子供ではございません。必ずやよき舞台を務めましょうとも」
 あくまでも景琰の肩を持って見せる誉王である。
 「ふむふむ。そちのような善き兄を持って、あれも果報者じゃ。のう、静貴妃」
 「―――まことに」
 慎ましやかに静貴妃がうなづいた途端。
 「痛っ、ちと強すぎるぞ」
 肩を揉んでいた静貴妃の手から、梁帝が身を捩って逃れた。
 「これはご無礼致しました……。陛下のお体を思うあまりつい……」
 「いや、よい。―――続けよ」
 恐る恐る静貴妃に再び背中を預ける梁帝であった。



   * * *


  
 じゃーん、と銅鑼が鳴り、いよいよ舞台の幕が開く。
 まずは、孫悟空が天界で大暴れする場面である。
 悟空が舞台を所せましと飛び回って、大立ち回りを披露した。
 「おお。景琰のやつめ、さすがに鍛えておるだけのことはあるわ」
 「あの子は丈夫だけが取り柄でございますから」
 静貴妃が微笑んだ。
 やがて五行山に囚われた悟空のもとへ、三蔵法師がやってくる。
 上手から現れた三蔵法師の姿に、宴席に居並ぶ一同がどよめいた。
 「これはまた、なんと美しいことよ」
 「なにやら神々しゅうて、寿命が伸びる心地でございますな」
 誉めそやす声がそこかしこから聞こえ、皇帝や皇后も身を乗り出した。
 舞台の失敗を望んでいたはずの誉王までもが、口をあいて見とれる始末である。
 「あのような美しい坊様ならば、わたくしも食べてみとうございますわ」
 越貴妃が悩まし気に身をくねらせるのを、皇帝が咎める。
 「これ。そなた、わしという者がありながら」
 「ま。陛下。たかが戯言にお妬きになっては困ります」
 ほほほ、と笑ってしなだれかかる越貴妃に、皇帝は容易く鼻の下を伸ばしている。
 「ああ……。ありがたや、ありがたや……」
 口の中で阿弥陀仏と唱える太皇太后を、豫津と穆青が笑った。
 「お婆様、あれはお芝居ですよ」
 霓凰がこっそりと太皇太后に耳打ちする。
 「よく御覧になって。あれは林殊哥哥ですよ、お婆様」
 「おや……」
 太皇太后は目を眇めて三蔵法師を眺め、
 「おお! 小殊―――! 小殊ではないか。この婆がついておるぞよー。小殊―――!!」
と声援を送った。
 「まあ。太皇太后さまは又あのように小蘇、小蘇と、相変わらずの蘇先生贔屓でおいでになること」
 越貴妃が笑い、皇后も苦笑してうなづいた。
 
 そうこうする内に、舞台では猪八戒が銀角に捕らえられている。
 「あああ、師父―――。悟空―――。助けてくれ――――!!」
 蒙摯が声を限りに叫ぶ。
 「ほう。蒙摯め、なかなかの演技達者はではないか」
 皇帝が杯を傾けながら笑うと、言侯がうなづいた。
 「御意。あれで今少し、紀王殿下ほどの恰幅が備われば申し分ないところですな」
 「しかし、あの妖怪どもは随分上がっているようだ」
と皇帝が金角銀角を指さす。
 「まるで棒読みですな」
 「かなりの大根よなあ」
 黎綱と甄平はすっかり緊張して、機械仕掛けのようにぎくしゃくと動いている。 
 一方、八戒を案じる三蔵に対して、沙悟浄がどん、と宝杖を床に突いた。
 「ええい、足手まといの豚など放っておけ!」
 それを見て、観客たちがひそやかに言い交す。 
 「どうも品のない河童ですな」
 「江湖の者だそうだから、しかたがあるまい」
 そんな観客の不満に応えるかのように、悟空が凛と言い放った。
 「悟浄よ、そうはいかぬ!」
 その凛々しさに、皆がざわめいた。
 「おお……、さすがは靖王殿下」
 「やはり河童めとはお育ちが違いますな」
 「なんとも威風堂々としておいでだ」
 悟空は三蔵を振り返った。
 「師父! なんとしても八戒を救い出しましょう」
 三蔵が慈愛に満ちた眼差しで悟空を見つめる。
 「悟空。そなたはまことに優しい心根の猿よな。師は嬉しく思います」
 「師父!」
 しっかりと手を取り合う三蔵と悟空の姿に、観客たちが溜息をつく。
 「なんとも美しい師弟でございますな」
 「まことにまことに」
 観客が口々に誉めそやす間に、舞台上では銀角が須弥山、峨眉山、泰山の三つの山を悟空に押しかぶせている。
 「おおおっ。悟空が山に押し潰されてしまったではないか」
 「ああ、景琰。いたわしいこと」
 皇帝が前のめりになり、静貴妃が袖を翳して顔を背けた。
 「これ、景琰! ぼやぼやしておる間に三蔵法師が捕らえられてしまったではないか! そんなハリボテの山くらい投げ飛ばしてしまわぬか!」
 「陛下、あまり興奮なさるとまたお加減が……」
 越貴妃が止めるのもきかず、皇帝は両手を振り上げて景琰を叱咤している。
 ハリボテ感満載の山の裏では、戚猛があらん限りの力で三つの山を支えていた。


 さて、場面変わって蓮華洞に囚われた三蔵は、いまや絶体絶命の危機である。
 「ぼぼぼ、坊主め、さっ猿めは既に山の下敷きになって助けには来れぬぞ。かっ、覚悟はよいか」
 「おっ、おまえの肉を食ってやるぞー!」
 しどろもどろの金角銀角に観客が失笑する中、
 「待て! この斉天大聖孫悟空を侮ってもらっては困る! 」
乗り込んできた悟空が、妖怪の手下どもを千切っては投げ、千切っては投げの大熱戦を繰り広げた。観客は拍手喝采である。
 悟空が暴れる中、金角銀角は縛りあげた三蔵を下手へと引きずってゆく。
 「ぼっ、坊主よ、貴様の肉を喰ろうて、わしは……わしは……」
 黎綱が台詞に詰まって隣の甄平を顧みた。甄平が慌てて台詞を引き継ぐ。
 「わっ、わしは……、わしらは……、不老長寿のからら、かだら、身体を手に入れるのだ!」
 「のだ!」
 梅長蘇が眉をひそめて、小声で「さっさと呼べ」とたしなめる。
 金角銀角は顔を見合わせると、紅葫蘆の栓を抜き、ふたりで息を合わせて、
 「さっ、三蔵よ―――!」
と大声で呼ばわった。
 「―――なんだ?」
と梅長蘇が答えるや否や、三蔵法師の姿は瓢の中へ吸い込まれてゆく。
 観客が総立ちになった。
 「おお、これはどういう仕掛けじゃ? 見事な演出ではないか」
 「さっきの素人臭いハリボテとはえらい違いじゃの」
 やんややんやの喝采である。
 「お、おーーーい、猿め!」
 「おう、なんだ?」
 振り返った悟空もまた、瓢の中へと消えてゆく。
 「ああ、景琰まで吸い込まれてしまいましたわ」
 静貴妃が両袖で顔を覆った。
 観客は皆、既に舞台に夢中である。
 そして、芝居はいよいよ佳境へと入るのであった―――。





   * * *





―――次回予告―――



 「おかしい。そろそろ栓が開いてもよい頃合いだが。―――蘇先生、いかがされた」
 「なんでもありません。少しばかり息が」
 「いかんな。戦英め、何をしている!?」

 果たして不慮の事態か?
 
 次回、第三話を待て!
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~ Comment ~

大爆笑!

は、は、遥華さん、お腹の皮がよじれて痛いです~~~!
お口あんぐりの誉王殿下、お間抜けなお顔も素敵っ。
オールキャストの琅琊榜版西遊記、結末はいかに!?
藺晨の見せ場は、もちょっとありますか~?(不機嫌な藺晨もカッコいいよう)

ウチはダンナが季節労働者で、この季節は超ビンボーですので、介護もあるし、旅行など(一泊でも)もってのほか!な経済状態です。
琅琊榜オフ会、実現するのなら、全部かなぐりすてて、絶対参加したいですが。
へそくりの量、増やすかな…。

私も、ふた昔ちょっと前、オフセット本を数冊作っておりました(笑)
近所に、同人誌をやってくれる印刷所がありまして。

遥華さんの作品、どれもすご~~~く好きなので、もっと多くの人に読んでもらいたいなあ。
紙媒体になったら、表紙とか挿絵とか、絶対素敵だろうなあ…。
と、今夜の妄想でした(笑)

>>Rintzuさん

えーーっ・・・・そんなに楽しんでいただけたなら嬉しいです(;''∀'')
藺晨ももっと出してあげたいですねえ・・・。

基本はオフセット本ばっかり出してたんですが、
イベントあわせでコピー本作ったりもよくしてたんです。
でも、ほんと、遠足のしおり並みでw 袋とじでね。

実のところ、今どきの小説原稿の入稿のしかたとかがよくわかってないんですw
いい歳して今更一から印刷屋さんに尋ねても、
理解力の低いわたしが理解できるかどうか怪しいし、
となると恥ずかしい思いするだけで何の進展もなく終わりそうだし、
かといって最近のしっかりしたコピー本を自力で作るだけの根気もないしで(^^;
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