琅琊榜

琅琊榜西遊記 2 (『琅琊榜』)

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あはは、続いてます(^^;;;;;

 「無益な殺生はならぬ!」
 悟空が、そう叫んだ。
 「―――殿下、困ります。それはわたしの台詞ではありませんか」
 慌てて梅長蘇が景琰の立ち位置まで歩み寄る。
 「ああ、すまぬ。悟浄があまりに乱暴狼藉を働くゆえ、つい」
 あれよあれよと言う間に伸された妖怪の手下役たちのそばで、降妖宝杖に見立てた杖を手に、つまらなそうに立っている藺晨へ、景琰は困惑したような眼差しを向けた。梅長蘇もため息混じりにそちらを見やる。
 「藺晨。沙悟浄が悟空より目立ってどうするのだ」
 たしなめられて藺晨は、不服げに顎を聳やかせた。
 「この猿めがあまりにもまだるっこしいゆえ、わたしが手伝ってやっているのだ。こんな糞真面目な悟空などあり得ん」
 「……すまぬ。敵とはいえ、蘇先生の配下だと思うと、申し訳なくてつい」
 確かに景琰の悟空ときたら、斃した敵をいちいち気遣い、手を差し伸べては起こしてやる始末である。
 「殿下。初めからそううまくはいかぬものです。おいおい慣れてまいりましょう」
 「―――うむ。皆には苦労をかけるが頼む」
 梅長蘇の励ましに、景琰も頷いた。
 その真剣な様子に梅長蘇は目を細め、ぱんぱんと手を叩く。
 「では、気を取り直して、蓮華洞へ殿下がわたしを救いに来る場面をさらえてみましょう」
 斃れていた江左盟の面々が起き上がり、もとの立ち位置へと戻ってゆく中、藺晨が眉をひそめた。
 「おい、長蘇。朝からそこばかりやっているではないか。お前、単にその場面が好きなだけだろう」
 「人聞きの悪いことを。ここは殿下の見せ場ゆえ、何度もさらえておく必要があるのだ」
 事もなげにそう返した梅長蘇だが、その頬が幾分赤くなっているところを見れば、さては図星だったのだろうと藺晨は顔をしかめた。そうとも気づかず、景琰は真剣な顔で頷いている。
 「蘇先生の言うとおりにしよう」
 台本を睨みながら、動きと台詞をぶつぶつと確認している景琰にほっとしつつ、梅長蘇は黎綱と甄平を振り返った。
 「では、金角銀角、早くわたしを縛りなさい」
 「はあ……」
 黎綱と甄平が、しぶしぶ梅長蘇に縄を打つ。
 「縄がきつすぎはしませんか?」
 「この場面、長くなりますゆえ、やはりもう少し厚着なさったほうが……」
 いつもの癖でついつい主を労わろうとする二人に、梅長蘇が少し口を尖らせる。
 「金角銀角ともあろう者が、いちいち三蔵を気遣ってどうするのだ」
 「そうは言われましても……」
 黎綱と甄平が顔を見合わせる。
 その様子をそばで見ていた景琰が、深刻な顔つきでうなづいた。
 「金角銀角の心配はもっともだ。よし、この場面はさっさと妖怪を退治して早く終わらせよう。それならば、蘇先生の負担も少なかろう」
 えっ、と梅長蘇が問い返すより早く、甄平が珍しく景琰に同調した。
 「さようでございます。殿下がお呼びになったら、我らはすぐさま返事をいたしますから、ぱぱっと紅葫蘆(べにひさご)に封じて下さい」
 「うむ。それがよい」
 そう答えるなり、景琰は瓢の栓を抜いて構えた。
 「では参るぞ。おーい、金角! 銀角!」
 「はーーーい」と金角銀角が行儀よく返事をする。
 見る間に二人の姿が瓢の中へ吸い込まれた。
 「ややっ。どういうことだ。まことに黎綱と甄平の姿が」
 驚く景琰に梅長蘇が答えた。
 「本物の紅葫蘆を調達して参りました。なに、すぐには溶けたりいたしませんゆえ、ご安心を」
 「そ、そうか」
 既に、梅長蘇のすることにいちいち驚かぬ景琰である。
 「とにかくこれで妖怪は封じたぞ。さあ、師父。悟空がお助けに参りました」
 縄に縛められたままの梅長蘇を、景琰は軽々と抱き上げた。
 「悟空……」
 半ば陶然としかけて、梅長蘇ははっと我に返る。
 「いや、違う! そうではありません。ここは殿下が大立ち回りを演じて観客を魅了する場面なのです!」
 景琰が困ったように梅長蘇の顔を見る。
 「しかし、そんなことをしていては蘇先生のお身体がもたぬ」
 黒々と澄んだ瞳に見つめられて、梅長蘇も思わず瞳を潤ませた。
 「殿下の為ならば、いかなる辛苦も厭わぬと申し上げたはずです」
 「蘇先生……」
 ふたり見つめ合い、感極まりかけたその時。
 「なんでもよいが、いつまで抱かれているつもりだ」
 藺晨の不機嫌な声が割って入った。
 景琰は真っ赤になって梅長蘇を下ろした。
 「こ、これは相すまぬ、蘇先生」
 慌てて詫びながら、景琰が紅葫蘆の栓を開けると、黎綱と甄平が瓢の口から飛び出してきた。
 梅長蘇も少し顔を赤らめる。
 「わたしこそ、ついうっとりと……」
 「え?」
 今度は梅長蘇のほうが、少し狼狽して顔を背けた。
 「いえ、なんでもありません。―――ならばもう一度、やってみましょう。わたしの書いた台本通りにお願いします」
 「う、うむ。折角、蘇先生が心血を注いで書き上げてくれた台本ゆえ。一言たりとも無駄には出来ぬ。頼むぞ、金角銀角」
 景琰がそう言って黎綱と甄平を振り返った途端。
 「はーーーい」
 「ああっ、殿下。紅葫蘆に栓をしておいでにならねば……」
 つい今しがた瓢の口から吐き出されたばかりの黎綱と甄平が、またしても瓢の中へ吸い込まれてゆく。
 「ああ! すまぬ」
 慌てて瓢を逆さにすると、ふたりが折り重なって転がり出た。
 「莫迦莫迦しくて見ておれんな」
 藺晨が呆れて、その場にどっかりと胡坐を組む。
 「わたしなど、朝から何もすることがないのだぞ」
と蒙摯も愚痴った。
 黎綱と甄平は、瓢から出たり入ったりですっかり消耗した様子である。
 「蘇先生。黎綱も甄平も疲れているようだし、先生も少し休まれたほうがよい。しばらくは、悟浄、八戒と共に立ち回りの稽古をするゆえ、先生は座って見ていてくれ」
 「わかりました。そうさせていただきましょう」
 縄を解かれて同意しつつも、少し残念そうな梅長蘇であった。


 
   * * *



 「駄目です。全くなっていません。悟空はもっと粗暴で天真爛漫な猿なのですよ! 殿下の猿は堅すぎます!」
 もう何十回目かの駄目出しに、さすがに景琰は心折れた様子でがっくりと膝をついた。
 「蘇先生―――。やはり私には無理だ」
 うなだれた景琰の汗を手巾で拭ってやりながら、戦英が梅長蘇を顧みた。
 「蘇先生。殿下には三蔵法師のほうが向いておいでになるのでは・・・・・・」
 梅長蘇もさすがに疲れた様子で、こめかみを揉みながら答える。
 「それはわたしとてよくわかっております。殿下の清潔で融通の利かぬご気性からすれば、まさしく玄奘三蔵をあてるべきかと……」
 そう言って、梅長蘇は言葉を切り、溜息をついた。
 「しかし、それでは殿下の大立ち回りを披露することができぬ上、悟空を演じる者がおらぬのです」
 「そ、それは……」
 戦英も返答に困って目を伏せた。それを見やりつつ、梅長蘇が言う。 
 「いっそ、わたしと殿下が配役を交代しては、とも―――」
 「そんな無茶な。蘇先生に悟空の立ち回りをこなせるはずがない」
 うなだれていた景琰が、慌てて梅長蘇の言葉を遮った。それへ梅長蘇が苦笑を返す。
 「まことの闘いではございませんゆえ、死に物狂いで臨めばそれらしき恰好くらいはつくかとは存じますが……」
 「しかし、それではそなたの身体が」
 景琰は梅長蘇のそばへ駆け寄って、その手をとる。梅長蘇も思わず景琰の手を握り返した。
 「殿下の舞台さえ成功すれば、わたくしめは力尽きるとも悔いはございません」
 「いや、駄目だ!」
 景琰は強く言った。その顔に決意が漲る。
 「―――やはり悟空はわたしがやろう。この悟空、必ずや師父を無事に天竺へ送り届けてみせるぞ!」
 「悟空……!」
 三蔵・悟空主従の絆が、今ここに改めて強く結ばれたのであった―――。




   * * *




――次回予告――

 「あのような美しい坊様ならば、わたくしも食べてみとうございますわ」
 「これ、越貴妃よ。そなた、わしという者がありながら」
 「ありがたやありがたや」
 「お婆様、お芝居ですよ」

 稽古を重ねて、いざ本番。いよいよ、舞台の幕が開く。
 
 次回、乞うご期待。
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