古剣奇譚

巣立ち (『古剣奇譚』 #32)

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2015.08.07の作品。
わたしは月言ちゃんも結構好きで。
見かけによらず、強い子ですね♡


江都を去る馬車の中、月言は一つ溜息をこぼした。
不思議と涙は出ない。
ほっと安堵している自分に気づき、蘭生から取り戻した玉佩を指先で撫でる。
人は孤独には慣れるものだと、月言は知っている。
幼い頃から体が弱く、同じ年ごろの子供ともろくに遊べなかった。
まるで寝所の中だけが、月言の世界の全てであったかのようだ。
たったひとりで、さまざまな夢想を羽ばたかせて、月言はおのが心を慰めたものだ。それはもう、月言にとって息をするのと同じくらい当たり前のことである。
だから、よいのだ。
ひとりぼっちで琴川に帰ることは。
つらかったのはむしろ。
蘭生たちを近くで見ていることだった。





女として、蘭生と襄鈴の仲の良さに嫉妬したわけではない。
むろん、全くなかったといえば嘘になるが、そういう単純なものではなかった、と月言は思う。
蘭生と襄鈴だけではない。
晴雪や屠蘇、そして彼らの仲間たち……。
そうした人たちの中に、容易に立ち入ることのできぬ寂しさが、月言をいやが上にも苦しめた。
同じ時を過ごし、共に危険も潜り抜け、思い出を共有する仲間たちというものを、月言は生まれて初めて知ったのだ。
はじめは、ただ近くで蘭生を見ていられればいいと思っただけだったのに。
近くにいて、時折顔を合わせるだけで胸がときめいた。
その笑顔が、たとえ自分に向けられなくても、笑いあうかれらを眺めるだけで、心が温かくなり、ほほえみがこぼれた。
自分が輪の中には入れずとも、賑やかな空気を感じるだけで、心が浮き立ち、幸せな気持ちになった。
なのに。
近くにいることが、こんなに辛く、寂しいものだとは月言は思いもよらなかったのだ。

自分のそばには、いつも乳母がいてくれた。
晴雪や如沁も優しくしてくれる。
自分もまた、その人々を好ましくも思っている。
だが、それとは違う、深い絆のようなものを、月言はこれまで知らずに育ったのだ。
共に思い出を語り、共に苦悩し、ある時は怒りをぶつけあい、ある時は軽口をたたき合う。
月言は、それを少し離れたところから、ただ見ているしかなかった。
手を伸ばせば届く場所にいながら、決して触れることの出来ぬものを、ただ、毎日近くで見ていた。
孤独でいれば決して知ることのなかった寂しさを、月言は身をもって知ったのだ。
つらくて、苦しくて。
月言は寂しさを持て余した。




だから、自分の小さな世界に戻ろう。
小さな自分だけの世界の中で、また幸せな夢に浸っていよう。
一人ぼっちにはすぐに慣れる。
玉佩を撫でて、月言は微笑んだ。
微笑んだつもりだった。
が。
どくん、と玉佩から鼓動が伝わった気がして、月言はびくりとする。
優しい形の眉をひそめ、月言は小さな唇を噛んだ。
玉佩が、自分を責めている。
そんなふうに感じる。
孤独の中に逃げ込もうとする自分を、長き年月蘭生と共に生きてきたこの玉佩が、責めている。

(わかっているわ)
もう、戻れはしないのだ。
何も知らなかった頃には。

「ごめんね。お前は、蘭生と一緒にもっと冒険がしたかった?」
微笑んで玉佩に問い、月言は吐息を漏らした。

世界は。
自分にとっての世界は、既にあの小さな寝所の中ではない。 
守られているだけの子供ではないのだ、もう。

(強くならなくてはね、私なりに)
愛する人たちを、守れるように。
この次、彼らにまみえる時は。
何か役に立てるだろうか、こんな自分でも。

友として。
仲間として。
彼らを支えられる自分になりたい。
その時には。

たとえ共に歩むことはできなくとも。
せめて心は、彼らと共にあれるだろうか。

握りしめた玉佩は、さっきより温かく感じられる。


寂しさが人を強くすることもあると、月言は唐突にさとった。
あの寂しさは、無駄ではなかったはずだ。
強くなるための。
強くなりたいと思うための。
大切な時間だったのだ。

今度こそ、彼らに寄り添えるように。


月言は、玉佩を胸に抱いた。
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~ Comment ~

NoTitle

遥華さま

月言ちゃん、けなげでイイ子でしたよね。
古剣では、一途でけなげな女の子ばっかりだった気がします。
そして、女の真心をささげたのに、報われない子も多かった…。

私も診断メーカー(妖怪)やってみたのですが。
「あなたは鬼です。眼鏡をかけています。性別は女です。
 あなたの髪は美しい銀色で、目は鴇色です。」
…うーむ、もしかして、遥華さんの好み?(笑)

>>Rintzuさん

月言ちゃんが唯一報われたんですよね・・・・・
優しくて強いお母さんになってくれるはず。

眼鏡をかけた鬼!?
しかし、白い人なんですね!!!?
性別が男だったらもっとよかったのに((笑))

診断メーカーって…

遥華さま

お薬が効いてるみたいで、良かったですね!
あまり無理なさらないで下さいね。

性別が男じゃなくて、スミマセン(^_^;)
私が長い銀髪の鬼、ダンナは黒髪の鬼で、ウチは鬼の夫婦(笑)

ちなみに、私の新刊の書き出しは。
「私はどうやら発情期らしい。
 彼の表情、仕草に、いちいちムラムラしてしまう」
おお~い。
書けって? 書けというの~!?
自由時間が夜中の2時間しかない私に、何を書けと…よよよ(T_T)

自分を一文字で表すと「正」でしたが、40過ぎて、腐枠です。
異世界の私は、「屈強で、非力な、かわいい悪魔」だそうですが。
妄想、頑張ります(笑)

>>Rintzuさん

鬼の夫婦WWWW
そしてムラムラなさってるんですね。
溜めてはいけません。
ほどよく吐き出しましょうwwww
溢れてるときは台所に立ちながらでも書けますw
わたしは基本的に電車の中とベッドの中が多いですが、
台所でも書きますw

NoTitle

ひいい~~~~。
遥華さんの「悪魔のささやき」攻撃をくらった!!
理性が100P下がった!

何とか、吐き出せる方法を探しまする(笑)。

>>Rintzuさん

ふふふ。
吐き出しましょうw
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