琅琊榜

人妻 ( 『琅琊榜』 )

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先日来、ツイッターでお仲間がたと、景琰と小殊の婚礼が執り行われたという設定で盛り上がっておりましてw
で、その翌日のお話しですwww


 「人妻―――?」
 「そうです。宗主はもう、人妻でいらっしゃるのですから、あまり誰彼構わず艶めいた笑顔を向けられてはなりません」
 人妻―――、と梅長蘇は反芻してみた。
 ちょっと、嬉しい。
 この新居で、毎日景琰の帰りを待つ。
 「夢みたいだな」
 「宗主?」
 今頃、景琰は政務に精出している頃か。いや―――。
 (昨夜は褥の中で精を出しすぎたゆえ・・・・・・)
 思い出し笑いをする梅長蘇のしどけない様子に、日頃から仕える黎綱ですらぼーっとなっている。
 「いけません、宗主。人前で、そんな蕩けるようなお顔をされるものではありません!」
 「そんなことを言っても黎綱、自然と・・・・・・」
 頬が緩んでしまうのをどうしようもないのだ。
 やれやれ、と黎綱は首を振った。
 「しばらく、どなたにもお会いにならないほうがよろしゅうございます。お式やら何やらで、お疲れのことでもございましょうから」
 溜息をついて去っていく黎綱の後姿さえ可笑しい。
 (お式やら、何やら)
 初夜の疲れ、と言わぬところが黎綱らしい。
 客の相手をせずにすむなら、それは好都合と言うものだ。毎日、景琰のことだけ考えていたい。これまで、なかなかそうもいかなかった分、これからは景琰とふたりで幸せに過ごすことにだけ心を砕くのだ。

 さて、まずは何をしよう。
 疲れて帰ってくるであろう景琰のために、何か美味いものを拵えてやりたい。
 景琰の好き嫌いは、幼馴染の自分がよくよく心得ている。
 そう、景琰の好物は―――
 「まず、水だろ? 水―――。それから、榛子の菓子・・・・・・」
 梅長蘇は思わず口を尖らせた。
 「つまらないやつだな。水など自分で勝手に飲めるし、榛子ではわたしが相伴できぬ」
 まあ、いい。好物でなくても、自分が作ったものなら、景琰はきっと喜んで食べてくれるだろう。折を見て静姨に料理を習わねばなるまい。―――ああ、静姨ではない。義母上だ。
 いそいそと厨房へ入る。
 「吉さん、夕餉の菜だが、わたしも・・・・・・」
 「ああああ、宗主! いけません! 指一本お触れにならないように!」
 里芋に手を伸ばしかけた途端、ものすごい勢いで止められた。
 「心配しなくても、わたしは里芋でかぶれたりはしないぞ?」
 「そんなことは心配しちゃいません。食材たちのほうを心配してるんでございますよ!!」
 梅長蘇は思わず眉を顰める。
 「人を病原菌のように言うな。わたしの病は感染りはせぬぞ」
 「なんのなんの、宗主のご病気ならみんな喜んで引き受けて差し上げますがね。宗主のせいで今夜の食材が台無しになったら、そりゃもう一大事でございます」
 吉の言っていることにようやく思い当って、梅長蘇は頬を膨らませた。
 「あの時は初めてであったゆえ、少々しくじったが、今度はもう少しましに出来るはずだ」
 いつぞや、たまには皆の日頃の苦労をねぎらおうと、厨房に籠ったことがあったのだ。皆、涙を流さんばかりに感激し、長蘇の身体を案じつつも、期待に胸を膨らませてくれた。
 が―――。
 「一回やそこらで慣れるなんて代物じゃございませんよ、あれは。宗主があそこまで不器用なお方とは、吉はついぞ存じ上げませんでした。もう二度と、厨房のものには手を触れないで下さいまし」
 さあ、お部屋へお戻りなさい、とお玉を振り上げて威嚇する吉の剣幕に、梅長蘇はしかたなくすごすごと厨房をあとにした。どうも女性には弱い長蘇である。
 
 確かに―――。
 厨房での仕事は自分には向いていないかもしれない、と梅長蘇自身思った。
 前回は、たしか食材をほぼ黒焦げにし、あまつさえ厨房まで半焼させたのだ。
 「あの時は、ひとりで籠ったゆえ失敗したが、吉さんと一緒ならどうにかなると思ったのだがな・・・・・・」
 そうは思うものの、いつまでもこだわっていては未練だ。
 ふと、思いついた。
 『食』が駄目ならば『衣』ではどうかと。
 鍋や釜は、病弱な自分には重すぎて扱いが大変だが、小さな針ならば軽々と操れるはずである。
 「麒麟の才子とまで呼ばれたわたしが、針仕事ひとつ出来ずになんとしよう」
 梅長蘇は黎綱の姿を探した。
 「黎綱。黎綱」
 「宗主。なにか」
 慌てて駆け寄ってきた黎綱に、にっこりと微笑みかける。
 「反物を見せてもらえまいか」
 「はあ? どうなさるので?」
 黎綱が不安げな顔をする。
 「景琰の衣を仕立てるのだ」
 「・・・・・・はあ、どなたが・・・・・・」
 「わたしだ」
 得意げに顎をそびやかせたが。
 「いけません!」
 言下に止められた。
 「この黎綱は、宗主がお小さい頃からよく存じ上げているのですよ!? こより一本、まともに撚ることもできず、三つ編みひとつ編めぬ宗主に、針仕事などできるはずがこざいません! 指を突いては、反物を血まみれにするのが関の山です」
 第一・・・・・・と、黎綱は更に何か言おうとしたが、口をつぐんだ。
 「なんだ? 何が言いたい」
 すっかり気分を害して、梅長蘇はむすっとしながら問う。
 「宗主のご趣味では、殿下が・・・・・・。いえ、なんでもありません。とにかく、針仕事はお諦め下さい」
 立ち去る黎綱の背中へ、梅長蘇はどん、と床を踏み鳴らし、舌を出して見せた。

 
 「わたしは、そんなにも不器用なのだろうか?」
 火鉢の前につくねんと座って、梅長蘇は溜息をついた。
 すぐそばで、飛流が折り紙をしている。
 そういえば、折り紙も苦手であった、と思い出し、また溜息が出る。
 と、そこへ。
 「殿下のお戻りでございますよ!」
と黎綱の声がした。
 「景琰!」
 思わず、腰を浮かせる。
 たった半日逢わぬだけで、懐かしくて慕わしくてならなかった。
 いや、と慌てて気を取り直す。
 あまりこちらがぞっこんな様子を見せては、侮られるというものだ。なんでもない顔をして迎えよう、と梅長蘇はひとつ咳払いをした。
 「小殊」
 満面の笑顔が、視界に飛び込んでくる。
 「小殊。逢いたかったぞ」
 力いっぱい抱きしめられた。
 「景琰―――」
 駆け引きなどまるでない、正直な夫に、たった今考えていたことが脆くも崩れ去る。
 「景琰、わたしも―――、逢いたかった」
 話したいことが、沢山ある。
 今日一日、どれだけ景琰のことを思っていたか。
 景琰のためにしてやりたいと思ったことが、どれほどあったか―――。
 
 
 「莫迦だな、小殊は」
 褥の中で、景琰がそう言って笑った。
 「料理や針仕事などは、それを得意とする者がしてくれればよい。お前が渠らの仕事を横取りする必要もないだろう?」
 「しかし・・・・・・」
 自分で景琰のために何かしたかったのだと、そう言うと。
 「待っていてくれるだけでよい。元気な顔で送り出して、元気な顔で迎えてくれれば、それで何も言うことはない」
 「景琰・・・・・・」
 ぎゅっ、と抱きしめられ、長蘇もまた景琰の背中に回した手に力をこめた。

 「しあわせものだな、わたしは―――」
 思わず、言葉が漏れた。
 景琰が小さく笑う。
 「それは、わたしのほうだ」

 来る日も、来る日も、この幸せが続くのだ。

 蕭景琰の妻になった―――。

 その実感が、ようやく梅長蘇の胸を満たしていた。
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~ Comment ~

妄想が形に!

蕭景琰&林殊(梅長蘇)さま

ご結婚おめでとうございます~!
末永くお幸せに!!
てゆーか、もうもう、勝手に甘々に暮らして下さいまし(笑)

妄想ツイの内容が、作品になってる!!(今夜もPC前で狂喜乱舞)
遥華さん、すごいです、今夜もニマニマしながら幸せに眠れそうです~。

>>Rintzuさん

とりあえず記念に書いてみましたwwww
ていうか、もっのすごいスピードで書き上げましたよw
30分かかってないんじゃ……www
もうアホですね(笑)

はやっ!

遥華さんの執筆スピードに脱帽です!
皆さんのツイ読みながら、あまりに幸せな結婚式までの流れに、うっとりしてました。
そして、宗主のあまりの不器用さに、大爆笑。
黎鋼に説教され、吉さんに追い払われ、何だかしょんぼりする宗主の後ろ姿が、哀愁を誘いますねえ(笑)
そして、黎鋼も「宗主のダダ漏れ色気ビーム」にやられかける辺り、もう最高です!

結婚式、藺蘇バージョンもあったら、ぜひ!!!!!
藺晨、頑張れ~。

>>Rintzuさん

藺蘇バージョンも欲しいところですよねえ、やっぱり・・・・www
どうだろう、藺晨とだとドレスからして違ってきそうですよねw

NoTitle

藺蘇バージョンも、お待ちしております~(三叩頭)
イラストも、素敵です~。

>>Rintzuさん

書きかけてはいたのですが、別の話に心をうつしてしまいましたwww

いえいえ

藺蘇バージョン、気長にお待ちしておりまする~。
西遊記も最高ですっ。

>>Rintzuさん

ありがとうございます~♡
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