古剣奇譚

天墉城御一行様 湯煙旅情 2 (『古剣奇譚』)

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2015.07.26の作品。
1に比べてちょっと不健全かも!?


 「師尊。お背中をお流しします」
 浴衣の尻を端折った陵越が、客室についた貸切露天風呂へと、師のあとから入ってくる。その姿に、紫胤真人は心持ち首を傾ける。
 「よいからお前も浴衣を脱いできなさい」
 「あっ、はい」
 陵越は慌てて脱衣籠に浴衣を脱ぎ捨てると、師のそばでかかり湯をした。
 師が髪をまとめあげるのを手伝い、陵越は師の背中へ湯を流す。手巾で師の背をこすろうとしたその手が、師に掴まれた。
 「久しぶりに、よく見せなさい」
 「えっ」
 紫胤は陵越を、自分の前へと引き寄せる。
 師の静かなまなざしに、陵越は少し身を固くする。
 「師尊……」
 師の白い指が、そっと陵越の肩を撫で、陵越はぞくりと肌を粟立たせた。






 大宴会場は、既に飲めや歌えの宴も果て、あちこちで酔いつぶれている者あり、部屋へ引き上げた者ありで、幾分寂しくなっていた。
 そんな中、まだ呑み足りない者たちもいる。
 「師姐、飲み過ぎです!」
 とりあげられそうになった徳利にしがみついて、紅玉は息巻く。
 「うるさいってんだ、芙蕖!色惚け親父の娘のくせして、生意気言ってんじゃねえよぉぉぉぉぉ」
 紫胤ら三人が宴会にも顔を出さなかったので、やけ酒を煽った紅玉はもうすっかり出来上がって、さっきから管を巻いている。
 「紅玉さんって、酒癖悪かったのね」
 日頃、凛として聡明な剣霊の、あまりの変わりように、晴雪と襄鈴が顔を見合わせる。
 向こうでは、とっくに掌門と陵端が引っくり返って、肇臨たちに世話を焼かれていた。
 「おらおら、如沁、てめぇも飲め!」
 「いただきますとも、これが飲まずにいられますかっていうんです」
 日頃、良家の子女らしく品格を保っている如沁までが、紅玉の勧めに乗って酒杯を空けている。
 「おっ、なんだ、てめぇ。まだあの腹黒い欧陽少恭に入れあげてやがんのか。女房持ちなんか、とっととあきらめちめーってんだ」
 気焔を上げる紅玉に、如沁も鼻息を荒げた。   
 「紅玉さんこそ、何百年恋い焦がれたって実りそうにないじゃありませんか」
 二人の報われない女が一触即発の空気になったところへ、向天笑がひょいと顔を出す。
 「おや、まだまだ賑やかじゃねえか。へえ、いずれが菖蒲か杜若だ」
 へらへらと愛想よく美女たちに声をかけた向天笑に、たちまち紅玉が向き直る。   
 「なに言ってやがんだ、知ってるんだぞー」
 しゃっくりをしながら、向天笑の肩をばんばんと叩く。
 「どうせ女にゃ役たたずなんだろうが~。義兄弟だか何だか知らねーが、ちゃんちゃら可笑しいんだよー」
 げらげら笑いながら向天笑に尻を向けて、紅玉はその尻を自分で叩いて見せる。
 「ああっ、師姐っ」
 ひとりで笑い転げている紅玉を、芙蕖らが必死に取り押さえた。
 「なっ、なんだと、このアマっ」
 「兄貴っ、いいからほっとけって!」
 ふるふると拳を震わせる向天笑を、延枚が引きずって連れ去った。


 向天笑らが去り、紅玉も大人しくなってほっと一息ついた芙蕖が、おもむろに 晴雪に顔を寄せる。
 「ねえねえ、晴雪。あなた、水鏡で大師兄たちの様子を見ることはできないの?」
 えっ、と清雪が怯むところへ、傍らで半分眠っていた紅玉がむくりと起き上がった。
 「晴雪、てめえそんな便利な技を隠してやがったのか」
 「紅玉さんっ……」
 目の据わった紅玉がしゃっくり混じりに詰め寄ってきて、晴雪は後ずさる。
 「そ、そんなことに使ったと知れたら、婆婆さまになんて言われるか……」
 「婆婆も爺爺も関係ねーんだよっ。とっととその技を使いやがれっ」
 冷や汗を流す晴雪の横で、芙蕖が生唾を呑んだ。




 師の唇が肩に触れて、陵越はびくりと震えた。
 肩にほどこされた刺青を、紫胤真人の唇がなぞってゆく。
 そこに彫られてある異国の文字を、師は微かに唱えているようだ。
 「んっ……、師尊っ……」
 「じっとしていなさい」
 師の舌が、塗れた肌をなめらかに滑る。
 紫胤は陵越の手をとり、その示指から指輪をそっと抜いた。
 指輪に隠されていた部分にも浮かび上がる文字へと、紫胤が甘く歯を立てる。
 「師尊……、お赦しください……、おかしな気分に……」
 「声を立ててはならぬ」
 「っ……」
 たしなめられて、陵越は唇を噛みしめた。
 左手を高く持ち揚げられ、白い脇に浮かぶ文様にも唇を這わされる。肩や指以上に感じやすい柔らかなそこを、執拗な口づけが幾度も行き来した。
 声を漏らさぬよう、必死に耐える陵越の腹へと、紫胤の指先が滑る。そこにもくっきりと紋章が彫られている。
 「…………っ」
 師の指先の淫らな動きに、陵越の目から涙がこぼれた。
 師の手で墨を入れられた時の痛みと快感が、いやがうえにも蘇る。
 堪えかねたように、陵越の両腕が唐突に師の身体を抱きすくめた。
 「師尊っ、もう……」
 陵越の身体が紫胤の上に覆いかぶさり、 濡れた石畳の上へとふたりは折り重なって倒れこんだ。





 「ぎゃああああああああッ」
と、断末魔のごとき悲鳴が上がった。
 晴雪の部屋の化粧室で、水鏡に見入っていた紅玉は泡を吹いて昏倒し、芙蕖もその場にくずおれた。
 晴雪はため息をついて、水鏡を消した。
 芙蕖はよろよろと立ちあがって、化粧室を出ていく。
 「師姐、だいじょうぶっ?」
 その背中に晴雪が声をかけると、芙蕖は振り返る元気もなく、ひらひらと手を振った。
 「父上がご覧にならなくてよかったわ……。こんなものをご覧になったら、寿命が縮んでおしまいになるところだったもの……」
 足取りも怪しく部屋を去る芙蕖に、晴雪はもはやかける言葉を持たなかった。
 「それより……どうすればいいのよ、もうっ」
 床に倒れている剣霊を前にして、晴雪は腕組みをして小さく足を踏み鳴らした。




 「師尊……。大師兄……?」
 屠蘇が目をこすりながら、露天風呂へと入ってくる。
 半ば夢うつつで服を脱いで洗い場まで来た屠蘇は、不思議そうに眼をしばたかせた。
 「……大師兄、師尊に何をしてるんだ?」
 「とっ、屠蘇!」
 師の上に馬乗りになっていた陵越が飛びのき、あわてて桶で自分の股間を隠した。
 紫胤真人は何食わぬ顔で身体を起こすと、平然とかかり湯する。
 ひとり狼狽している陵越を一瞥してから、屠蘇は小さく欠伸をして、師のそばで自分も湯を浴びようと桶に手を伸ばす。
 「待ちなさい」
 紫胤が屠蘇の髪をまとめてくれた。
 大人しくされるがままになっていた屠蘇が、
 「あ。師尊」
と紫胤の肌を見とがめた。
 「そこ、虫に刺されておいでですね。あっ、ここも」
 白い肌のそこここに咲く、赤い花びらのような痣を、屠蘇がちょっと驚いたように見つめる。
 すかさず陵越が、口をはさんだ。
 「ああ、そうなんだ、屠蘇。それで今、見てさしあげていたところだ」
 「ふうん。そうなのか……。あ、大師兄も」
 「えっ」
 陵越があわてて、自分の身体も見回す。
 「ん。刺青のところがかぶれただけかな?」
 「……っ、そ、そうだな、かぶれただけだ」
 陵越はしきりにうなづき、紫胤は素知らぬ顔で岩風呂へと入る。
 「少恭にもらった薬があるから、ふたりともあとで塗ってさしあげます」
 屠蘇がにっこり笑ったので、紫胤は湯の中で満足げにうなづき、陵越は少恭の薬と聞いて、ひとり不安げに眉を寄せたのだった。

 

 

 翌日、紫胤門下と飛び入り組を乗せて、向天笑の船が一足先に温泉町を飛び立った。
 あとに残された掌門父娘と陵端らは、とうとう思うに任せなかった温泉旅行に、がっくり肩を落としながら帰路についたのである。

 「紅玉さん、しっかりして」
 「だ、大丈夫よ。これぐらい何でもないわ」
 二日酔いで船べりにしがみついている紅玉は、それでも主に同行しての船旅とあって、油断なく辺りに気を配っている。

 「いやあ、屠蘇のお師匠ってぇなら、俺にとっても親同然だ。さあさあ、たらふく飲み食いしてくれよ」
 向天笑が積み込んできた食料を、しきりに紫胤真人に勧める。
 「真人は修行の身なんだから、そんなものは召し上がらないって。襄鈴、ぼくらでお腹いっぱいいただこうよ」と蘭生。
 「酒の相手なら俺に任せておけ」と千觴が豪語した。

 屠蘇と晴雪は、手をつないで雲海を眺める。 

 空はどこまでも青く、翼のある船からは賑やかな声の途絶えることがなかった。

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~ Comment ~

爆笑!

遥華さま

温泉旅行、珍道中ですね~。
皆さん、それぞれ悲喜こもごも(笑)
本編は、後半どんどん話が暗くなっていくので、皆集合してこんな風に宴会ができたら、幸せだったのになあ。

私は、少恭がブラック化していくのが、毎日悲しかったです。
というか、「爽やかな好青年が実はけっこう腹黒(笑)」というシチュエーションが、私の好みではないのかも。
現在の大河も、甘い笑顔だけど計算づくの亀(直親)より、心正しく(笑)ひねくれている鶴(政次)の方が、断然カワイイ!と思ってしまいます。

報われないのは、紅玉姐さんただ一人…かわいそう。

その後、遥華さんのお加減はいかがですか?
ちょっと楽になったからって、無理は禁物ですよ~。
お薬は飲み切って下さいましね。

>>Rintzuさん

終盤の重さに耐えきれずこんなものをwww
温泉ネタが好きすぎてw

そうですねえ・・・・私はどうだろ、
やっぱりいい人と見せかけて腹黒いよりは
すごくピュアでいいやつなのに見た目クールビューティー
っていうのが好きですwwww

帯状疱疹のほうは順調です。
特に表面が順調に治って来てるかな。
痛みはまた完全には消えませんけどねー、
先週のことを思えば全然まったくラクです。
お薬はまだ飲んでますよー♪
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