古剣奇譚

天墉城御一行様 湯煙旅情 (『古剣奇譚』)

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2015.07.25
この前日に、遥華は温泉に行ったため、頭が温泉モードだったようですw
放映中だった本編が佳境に入ってきて話が重くなっていたため
ライトなものを書いたらしいw


 「執剣長老がおでましらしい」
という噂は、あっという間に広がった。
 毎年恒例の慰安旅行に、今年は憧れの紫胤真人も参加すると言うので、皆が浮き足立っているのだ。
 なにしろ執剣長老はずっと閉関の行で禅房にこもったきりで、その姿を拝めるのは、大熊猫をつかまえるより難しいと言われる始末である。
 それと言うのも、どうやら直弟子の百里屠蘇に原因があるらしいという憶測が飛び交って、その為に屠蘇は天墉城において迫害の憂き目にあっているほどだ。
 その紫胤真人が、無礼講の慰安旅行に参加するとあって、いやが上にも興奮が広がっているのである。
 そんな中、
 「邪なことを企てる者もいないとは限らないのだから、あなたたち、しっかりと師尊をお守りしなさい!」
紅玉ばかりが神経をとがらせている。
 「邪なというのは、もしや……」
 屠蘇が口にしかけると、紅玉が屹っと睨み付ける。
 「滅多なことを言うものではないわ!なにしろ渠は、この天墉城を預かる……」
 「しーっ!」
 陵越が紅玉の口を押さえた。


 「今年の慰安旅行の行き先は、日本の温泉だそうです、二師兄」
 早耳の肇臨が、早速ご注進にやってきた。
 「温泉だと?」
 かっと目を見開いた陵端が、思わず鼻血を噴く。
 「ああっ、二師兄っ!!」
 「ふきょの、、、▽◎*>〇#@、、、 」
 ブハッと更にもう一噴きしてひっくり返った陵端を、肇臨と陵川が慌てて介抱した。




 さまざまな思惑をよそに、いよいよ慰安旅行の日がやってきた。
 仙人たちとその弟子らの一行は、霊力を振り絞って日本へと飛ぶ。
 途中で何人か修行不足の者らを、蓬莱の沈んだ辺りに取りこぼしてきたようだが、霊力の強い者たちが皆を率いて、大多数は無事に目的の温泉町へとたどり着いた。
 「だ、大丈夫ですか、二師兄」
 修練不足でふらふらの陵端を、肇臨たちが気遣う。
 「なに、これしきのこと、ふふふ、俺の野望の前には、、、」
 「二師兄っ、駄目です、また鼻血がっ!」

 陵端たちの騒ぎを尻目に、方蘭生らがちゃっかり便乗して参加している。
 「ねえ、一緒に露天風呂入るだろ? 襄鈴」
 蘭生にまとわりつかれ、襄鈴が業を煮やす。
 「なに言ってるのよ、あなたには月言さんがいるでしょ。わたしは屠蘇哥哥と一緒にお風呂に入るんだから」
 鼻に皺を寄せて見せる襄鈴に、蘭生も言い返す。
 「君こそなに言ってるんだよ。屠蘇は晴雪と一緒に決まってるだろ」
 二人が言い争っていると、不意に如沁の声が割ってはい った。
 「あなたたち! 混浴ではないのよ。ふしだらな真似は私が許しませんからね!」
 思わず蘭生が、亀の子のように首を引っ込めた。
 「姉上だって、ほんとはあわよくば少恭の寝込みを襲おうとか思ってるだろ?」
 「な、なんてはしたないことを、この子はっ!」
 姉の平手打ちが翔前に、蘭生はそそくさと逃げ出していた。
   

 「どうして私まで駆り出されねばならないんだ」
 少恭が不服を唱えながら、千觴の後ろを歩く。
 「まあ、そう言うな。面白そうじゃないか。酒もたらふく飲めそうだ」
 千觴は機嫌よく瓢の酒をあおりながら、歩みを緩めて少恭の隣に並ぶと、その肩を抱え込む。
 「しかし、私はせっかく妻と水入らずで……」
 自分の肩を抱く千觴の腕をちらちら見つつ、少恭は溜息をついた。
 すると巽芳が、千觴とは反対側から少恭の腕に自分の腕をからませる。
 「あら、夫君。私はあなたと一緒ならどこにいても楽しくてよ。あなたはそうではないの?」
 上目遣いに見つめられて、少恭も目尻を下げる。
 「無論、私も巽芳と一緒なら、どんなときも幸せだ。夫婦の想いは、いつも同じだからな」
 「嬉しいわ、夫君」
 仲睦まじすぎる二人に当てられた千觴の腕を、横から華裳が引いた。  
 「ちょっと、あんたも少しくらい気のきいたことを言えないの?」
 「おいおい、華裳。俺に少恭みたいに歯の浮くようなことを言わせたいのか」
 とんだ藪蛇で、千觴が鼻白む。
 「たまにはそれくらいおっしゃいよ!ほら、野暮はよして、こっちへいらっしゃい! 」
 華裳が大男の千觴の耳を引っ張って連れ去るのを、少恭と巽芳は見送り、顔を見合わせた。


 天墉城の一行は、土産物を冷やかしつつ、銘々このあとの計画を練っている。
 「師尊。折角ですから、我々も温泉の周りも色々観光してみてはどうでしょう」
 陵越の提案に、紫胤も浅くうなづいた。
 「よかろう。どれ、観光案内を見せてみなさい」
 陵越がさっそく観光案内を渡すと、紫胤はそれに目を走らせる。やがてその目が、頁の一か所に釘付けになった。
 「ふむ、この滝はなにやら霊験あらたかなようだ。是非とも滝行をおこないたいものだが」
 師が俄かに顔を輝かせるのを見て、陵越は慌てた。
 「おやめください、師尊!骨休めに来てまでそんな。修行のことはどうかいったんお忘れになってください!」
 ここまで来て、滝行などに精を出されては、折角の楽しみが台無しである。頭を下げて止める弟子に、紫胤はかるく唇を噛んだ。
 「うむ、お前がそこまで言うなら、残念だが諦めよう」
 「ありがとうございます、師尊」
 「……」
 名残惜しげにいまいちど滝の絵を眺めてから、紫胤は観光案内を閉じた。


 「ねえ、蘇蘇。この先の河原に行きましょうよ。それとも足を延ばして山のほうまで行ってみる?」
 晴雪は嬉しそうだが、正直、山も川も見飽きて、何がどう楽しいのかわからない屠蘇である。
 生返事をしていると、不意に空が翳った。
 ふたりが見上げると、大きな船が悠然と空をやってくる。
 「向さんの船だわ」
 ふたりが川べりに駆けつけると、船がちょうど下りてきたところだ。
 甲板から向天笑と延枚が飛び降りた。  
 向天笑がぱんぱんと屠蘇の肩を叩く。
 「よう。こんな楽しそうな催しに、俺達を呼ばねえって法はねえだろうに」
 「悪い。必要ないと思った」
 愛想のない答えに、延枚が大袈裟に嘆いて見せた。
 「そりゃあないよ、屠蘇。水くさいじゃないか」
 大きなため息をついて両手を広げる。
 屠蘇と晴雪が顔を見合わせた。
 「俺達は一緒に命がけで雷雲の海を渡った仲だろ? そう、あれは確か……」
 「「「くどい!」」」
 屠蘇と清雪、そして向天笑までが、異口同音に突っ込んだ。



 紫胤と陵越、紅玉、それに掌門父娘らは、温泉町のはずれの足湯を楽しんだあと、辺りを散策している。
 「これは平和の像というものだそうだ」
 美しい像が立っているのを見上げ、掌門が名所案内で得た知識を披瀝する。
 「どうかね。どことなく紫胤真人に似て、なかなか美しいではないか」
 掌門が熱いまなざしを紫胤に向けると、紅玉が素早くふたりの仙人の間に割って入った。 
 「私の目には、紫胤さまのほうが一億倍お美しく見えますが」
 「むっ」
 掌門と紅玉の視線が真っ向からぶつかり、火花が散るのを、陵越は眉間に皺を寄せながら溜息をついて眺めていた。
 
 そんな中、屠蘇らが道の向こうを歩いているのを見つけた芙蕖は、慌ててそばへ駆け寄った。
 「ねえ、屠蘇。大師兄はいつ頃お風呂に入るって言ってた?」
 屠蘇の耳元で尋ねる。
 「大師兄なら、晩飯のあとで入ると……」
 屠蘇はきょとんとして、そう答えた。
 「でも、師姐」
 横合いから、晴雪が芙蕖に耳打ちする。
 「なあに、晴雪?」
 「紫胤一門は大浴場には入らないそうよ」
 気の毒そうに晴雪が言う。
 「ええっ!? どうして!?」
 芙蕖が目を見開く。
 「紅玉さんが警戒しているのと、それに大師兄は刺青があるから、公衆浴場には入れないそうよ」
 「なんですって!?」
 愕然とした芙蕖の背中を、晴雪は慰めるように撫でた。
 「だから、紫胤一門は特別に貸切露天風呂つきの客室らしいわ」
 「そんなぁ……」
 芙蕖は打ちひしがれて、とぼとぼと父のもとへ戻った。
 「どうしたのだ、顔色が悪いようだが」
 娘の落胆ぶりに、掌門が問う。
 仔細を芙蕖から聞いた掌門もまた、愕然としていた。
 「なんだと!? 聞いておらんぞ。いつのまにそんな手回しのよいことを。おのれ、あの女剣霊の仕業だな!」
 「父上ぇ……」
 父娘はひしと抱き合って悔し涙にくれた。



 温泉宿に落ち着いた一行は、それぞれ部屋で休息をとる。
 茶を淹れたり、着替えの浴衣を出したりと、いそいそ師の世話を焼いていた陵越が、
 「そろそろ湯を使われてはいかがですか、師尊」
と、ちょっと赤くなりながら勧める。
 紫胤は「うむ」と返事をして、
 「ではおまえたちも支度をしなさい」とふたりの弟子に微笑んだ。
 「ご一緒させていただいてよいのですか!」
 陵越が湯のみをひっくり返しながら勢い込む。
 「子供の頃にはよく洗ってやったではないか」
 「そっ、それはそうですが!」
 あたふたとこぼした茶を拭きつつ、陵越は喜びを隠せない様子だ。
 と、紫胤が膝を叩いた。
 「ああ、うっかりしていた、」
 「なんですか、師尊」
 紫胤は袂から布袋を取り出した。
 「さっき、掌門が用を足すときに預かっていたのだ。気に入りの手巾だとかで、入浴のときには必ず使うと言っておられた。これがないとお困りだろう」
 「では、俺が届けてきます」
 屠蘇が役目を買って出る。
 「二人とも先に入っていてください」
 「では頼む」
 師と兄弟子に見送られて、屠蘇は部屋をあとにした。




 「二師兄、しっかりしてください」
 頭からぐっしょり濡れそぼった陵端が、両脇から肇臨と陵川に抱えられてよろよろとやってくる。
 そんな折りも折り、向こうから屠蘇が歩いてくるのが見えた。
 「むっ。屠蘇っ」
 屠蘇は、濡れねずみの陵端を不思議そうに見た。
 肇臨のほうへ近づき、顔を寄せる。
 「二師兄は、いつも服を着たまま風呂に入るのか」
 「……ッ」
 たちまち眦を吊り上げた陵端を押しとどめ、肇臨が愛想笑いを浮かべる。
 「いやっ、今日はたまたまなんだ。ちょっと急いでおられたからな」
 「ふうん……」
 屠蘇はまだ少し不思議そうにしていたが、すぐに興味をなくしたらしい。
 「それより、掌門は露天風呂においでだったか? 師尊から預かってきたものを渡したいんだが、部屋にはおられなかった」
 「ああ! おいでだったとも! 今、岩風呂には掌門お一人だから、すぐに持って行ってさしあげろよ」
 親切ごかしな肇臨の言葉に、屠蘇はにこっと笑顔を返した。
 「ん。わかった。ありがとう、肇臨」
 露天風呂のほうへ去っていくその後ろ姿を見ながら、陵端が勝ち誇ったように鼻息を荒げる。
 「でかしたぞ、肇臨! ふふふ、屠蘇め、目に物見せてくれよう」
 「しかし、ちょっと心が痛みました。あんなふうに礼を言われると」
 肇臨が頭をかく。
 「なんの! 俺ばかりがこんな目にあったのでは割にあわん。やつも一蓮托生だ!」
 高笑いする陵端に、肇臨と陵川は顔を見合わせて溜息をついた。


 そして、露天風呂へと足を踏み入れた屠蘇は、たちまち甲高い罵声の渦に巻きこまれていた――――。
 「屠蘇っ! 陵端ばかりか、あなたまでなんという恥知らずな真似をっ!」
 紅玉の怒声と共に手桶や盥が投げつけられて、屠蘇は慌てて焚寂剣でそれを断ち割った。
 岩風呂の中では、紅玉のほかに、晴雪、襄鈴、芙蕖、如沁、華裳が湯の中で身を寄せ合って、屠蘇に白い眼を向けている。
 「いや、俺はべつに……」
 「おやまあ、いつも仏頂面をしているかと思ったら、案外ムッツリなんとかだったのかしらね」
 華裳が呆れたように言い、襄鈴はちょっと嬉しそうに、
 「屠蘇哥哥、折角だから一緒に入っていけば?」と手招きする。
 「蘇蘇……」
 晴雪までが疑わしげな眼を向けたので、屠蘇は慌ててかぶりを振る。
 「ちがう、晴雪。俺は本当に掌門……」
 そこまで言いかけて、屠蘇の目はそこで初めて、晴雪の一糸まとわぬ姿に釘付けになった。
 「いや、その、俺を信じ……、うッ!」

 「蘇蘇!?」

 不意に屠蘇が苦悶の表情を浮かべた。
 その額に赤い痣が浮き上がる。

 「ぬぉぉぉぉぉぉッ……」

 その眸が赤く染まり、額の痣からはどす黒い邪気が燻り始めた。

 「まずいわッ! 邪気が!!」
 紅玉が皆を、背中に庇う。

 「ぐわぁぁぁぁぁぁッ!!」

 「晴雪っ、逃げなさいッ」

 阿鼻叫喚の中。

 突如、一陣の風が巻き起こり、蒼い清廉な気が、露天風呂の湯気を貫いた。

 ザバーーーーーーーーッ!!

 「ああっ、ご主人さまっ!」

 盛大に飛沫を上げて舞い降りた紫胤真人が、清気をこめた指先で、屠蘇の額の痣を一衝きした。

 「蘇蘇っ」

 案じ顔の晴雪をはじめ、皆が固唾をのんで見守る中、ぐったりと力を失った屠蘇の身体を、紫胤の白い腕が抱きとめた。

 「ご主人さまっ、お見事です!」
 感激に声を震わせた紅玉だったが、次の瞬間、重大なことに気付いて悲鳴を上げた―――。

 「ああああっ、みんな、目をつむりなさいっ!! 見ては駄目よ! 罰が当たりますッ!」

 紅玉は身を挺して、紫胤真人の前に仁王立ちになった。

 「師姐ッ……」
 「紅玉さん……」

 皆があっけにとられる中、師に遅れて陵越が岩の上に現われる。
 「師尊っ、これを!」
 屠蘇を抱いて湯から上がった師の身体に、陵越は慌てて浴衣を着せかけた。

 「皆、騒がせて申し訳なかった」
 女たちからは目を背けたまま、陵越が詫び、師弟は露天風呂から去った。

 あとには茫然とした女たちが取り残される。

 「大師兄ったら、自分はちゃんと浴衣を着てから来たのね……」
 芙蕖が無念そうにつぶやき、紅玉は放心して湯に沈んだ。




 「大事に至らず幸いでした」
 師の膝の上で眠る屠蘇の寝顔を、陵越が覗き込む。
 紫胤は団扇で屠蘇に風を送ってやりながら、優しくうなづいた。
 「よく眠っていますね」
 屠蘇が幼い頃、よくこうして師とふたりで寝顔を眺めたものだと、陵越は懐かしむ。

 紫胤は膝から屠蘇の頭を下ろした。

 「……改めて湯を浴びるとしようか」
 「はい、師尊」


 師弟の夜は、まだ始まったばかりである――――。


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~ Comment ~

古剣奇譚ご一行さま温泉両行!?

遥華さま

大爆笑してしまいました!
遥華さん、コメディもお上手~。
あの人もこの人も勝手についてきて(笑)、てんやわんやの珍道中ぶりが、目に浮かぶようです。
神経をすり減らしているのは、紅玉姐さんだけ、なのかな?

続きはありますか?
楽しみにお待ちしております。

弘文学院、順調に視聴中です。
泣き顔のイメージしかなかったCCちゃんが、元気で可愛くて、たいへんヨロシイです(*´▽`*)

>>Rintzuさん

あははは、こういうののほうが気楽なんですけどね(^^;;
ホントはこういうやつはマンガで描きたいです、もう少し画力があれば。
でも、ムリなので・・・・。
一応、これの続きはあるんで、今日あたりコチラへお引越しさせますねw

弘文学院、面白いですよね。
みんな元気で可愛くて、それでいてホロリとさせる場面もあったりして。
こういう台湾ぽい(? よく知らないけどw)ハチャメチャノリも大好きです。

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