琅琊榜

情人4 (『琅琊榜』 #50)

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どんどん続いてます・・・・(大汗)


 皇宮で何があったのか。
 詳しいことはわからない。
 それを知る梅長蘇は疲労困憊し、昏々と眠り続けている。皇太子からも、いまだ何も言って寄越さなかった。
 それでも、よほどの危機であったことは、疲れ切った梅長蘇の寝顔から容易に察せられた。
 「殿下‥‥‥」
と眠っている梅長蘇が呟く。
 景琰、ではなく、殿下、と。

 金陵入りしてから、藺晨は気づいていた。梅長蘇が寝込む度、うわごとで「殿下」と呼ぶことに。
 以前は、そうではなかった。
 琅琊閣で臥せっていた頃、梅長蘇は毎夜悪夢にうなされて、父の名を呼び、そして最愛の友の名を呼んだものだ。景琰、と。

 ―――景琰。
 林殊である梅長蘇にとって、誰よりも慕わしい、友の名であった。
 それが今は、「殿下」と呼ぶ。
 簫景琰との関係に変化があったのだ、と藺晨は忽ち察したのだった。
 言うまでもなく、謀士・蘇哲にとって簫景琰は主である。殿下と呼ぶに何の不思議もあるまい。だが、夢の内でまで偽ることはないはずだ。
 恐らくは、林殊と景琰ではなく、梅長蘇と景琰の間に新たな関係が築かれたのだと藺晨は推測した。そうなるだけの何かがあった。うわごとで殿下と呼び慕うほどの。
 (下世話だな)
 行き当たった結論に、我ながら苦笑したものだったが。

 十日ばかり前、蒙摯が梅長蘇に迎えを寄越した。
 あれだけちょくちょく蘇宅に出入りしていながら、あまりにも不自然である。なんとなく黎綱の態度も解せなかった。
 遅くなればそのまま泊まってゆくようにと、はじめからそういう口上ではあったが、次の朝に、もう一晩、と使いが来たのには、さすがに黎綱も少しばかり顔色を変えていた。だから言わぬことではないと甄平に絞られている黎綱を尻目に、藺晨はあらかたを察していた。
 (勘が鋭いのも考えものだ)
 気づかずともよいことに気づいてしまう。
 苦笑いを噛み殺しながら、藺晨は長蘇の帰りを待ったのだった。

 三日目の昼になって、梅長蘇はようやく戻ってきた。
 梅長蘇を乗せた馬車が蘇宅に着くのを、藺晨は門の内で眺めていたのだ。
 黎綱の手を借りて馬車から降りた梅長蘇は、美しく蒼ざめた顔をしていた。黎綱と甄平に両側から支えられて、足を引きずるようにしながらそろそろと門を潜った梅長蘇に、藺晨はゆっくり近づいた。
 うなだれていた梅長蘇が、顔を上げる。目の下にうっすら隈を浮かせたその顔が、妙に艶かしく見えた。それがなんとなく腹立たしくて、藺晨は黎綱と甄平を顎で退け、梅長蘇の身体を乱暴に抱き上げたのだ。一瞬、梅長蘇が眉をしかめる。それには構わず、藺晨は黙って歩き出した。
 いつもなら文句のひとつも言うはずの長蘇が、言葉もなく気まずげに目を伏せているのにも腹が立った。
 治療をするから誰も入れるなと黎綱たちに言い含めてから、藺晨は梅長蘇を牀間へ運び入れた。
 「さっさと俯せにならんか」
 そう言うと、牀台に身体を横たえようとしていた梅長蘇が動きを止めた。
 「手当てが出来んだろう」
 梅長蘇の青白い頬に、ぱっと朱が散る。
 「‥‥‥手当てなど、頼んだ覚えはない」
 そう言っていつものように平静を装おうとする梅長蘇に、藺晨は溜息をつく。
 「ひどく痛むのだろう? 診てやるから尻を出せ」
 抱き上げた振動だけで顔をしかめたくせに、気づかぬとでも思っているのか。
 長蘇は悔しげに眉を寄せたが、結局は観念した様子で黙って俯せになった。
 重ね着した衣の裾を筍の皮を剥ぐように捲ってやると、痩せた尻があらわになる。
 藺晨は少しため息をつくと、その白い尻の谷間に躊躇なく顔を沈めた。びくり、と梅長蘇の躰が震える。
 「藺晨、何‥‥‥」
 「じっとしていろ。舌が強く当たると傷に障るぞ」
 「やめ‥‥‥」
 まだ滲んでいる血を丹念に舐めとってやり、それから指で薬を塗り込む。
 忌々しいことに、梅長蘇は一度も声をあげなかった。声を漏らさぬよう自分のこぶしを噛んで耐えたのだ。
 「もういい、終わった」
 そう言って軽く尻を撫でてやると、長蘇はようやくぐったりと力を抜いた。
 「全く、太子も罪なことをする」
 そうつぶやくと、梅長蘇はまた、びくりと身を震わせたが。
 「いや、罪つくりなのはおまえのほうか」
 藺晨はため息をついた。
 「‥‥‥愚かだと思うか」
 梅長蘇がそうつぶやく。
 「そうだな」
 藺晨は事も無げに答えた。
 己で己の身を苛むような真似だと思う。だが。
 (一番愚かなのは―――)
 ほかでもない、自分だと知ってもいる藺晨である。それだけに、苛立ちの持って行き場がないのだ。


   *


 「‥‥‥長蘇」
 目覚めぬ友の、髪を撫でてやる。 
 梅長蘇を支えられるのは自分しかいないと、藺晨はずっとそう自負してきたのだ。
 琅琊閣という後ろ楯と、当代一の医術、ふたつながらにして梅長蘇の為に差し出した。その気になれば、自分はなんでも与えてやれる。だが。
 (それだけでは足りぬのだな)
 悔しかった。
 いっそ今すぐ、この病んだ身体を無茶苦茶に責め苛んでやりたかった。取り澄ました顔が苦痛に歪み、瘦せ細った身体が身悶える、その乱れるさまを思い描くだけで下腹が熱くなる。
 だが。

 愛しいのだ。
 救ってやりたかった。―――身も心も。




   * * *



 
 梅長蘇が皇宮から戻って、数日。
 蒙摯が訪ねてきた。
 この数日の間にも、宮羽を天牢から連れ戻すにあたって、蒙摯は蘇宅を幾度も出入りしている。臥せっている梅長蘇に代わって、藺晨が知恵を貸しもした。その件もひとまず落着した今、しかもいつぞやと同じく、わざわざ馬車を率いて訪ねてきたとあっては、当然いやな予感もしようというものだ。
 長蘇はすぐに、蒙摯を寝所へ招き入れた。
 ほとんど一日中うつらうつらと眠っている梅長蘇が、たまたま目覚めていたのも腹が立つ。
 「‥‥‥殿下はどうしている」
 蒙摯の顔を見るなり、長蘇はそう尋ねた。
 「おまえに会いたがっておいでだ。それゆえにわたしを寄越されたのだが‥‥‥」
 蒙摯は太い眉を八の字に下げた。
 「とてもまだ、出掛けられる容態ではなさそうだな」
 体を起こすどころか、眼を開けているのさえ大儀そうな梅長蘇を見て、蒙摯は溜息をついた。すかさず甄平が口を挟む。
 「当たり前です。まだ寝返りを打つのさえお辛いというのに」
 黎綱が甄平の袖を引いてたしなめているが、甄平はここぞとばかりにぶつぶつ不平をこぼす。長蘇は困ったように目を伏せていた。
 「蒙大統領」
 藺晨は、くいくいと指で蒙摯を招いた。
 「なんだ?」
 引き寄せられるように側へ来た蒙摯に、傍らの卓から紙の袋をとって見せる。
 「これを朝晩煎じるのだ」
 「は?」
 蒙摯は意味を測りかねたように、人懐こい大きな目を見開いた。
 「食事の前だ、いいな」
 「それはつまり、どういう‥‥‥」
 相変わらず、察しの悪い男である。
 「わたしの患者を預けるのだ。責任を持って世話をしてもらあねば困ると太子に伝えろ」
 ようやく、黎綱と甄平がこちらの会話に気づいた。
 「閣主!」
 二人から抗議の声が上がる。
 「五月蠅いやつらだな。医者のわたしが構わんと言っているのだ。それ以上のことはあるまい」
 ああ、とようやく蒙摯も理解したようだ。
 長蘇の顔は、振り返らなかった。喜ぶ顔なら、見たくはない。
 「その‥‥‥」
 「なんだ、蒙大統領?」
 おずおずと口を挟んだ蒙摯に、藺晨は先を促した。すると。
 「心配なら藺晨どのも一緒に‥‥‥」
 蒙摯がそう言った途端、さすがにその場の空気が凍り付いた。黎綱も甄平も押し黙り、ちら、と見ると梅長蘇も目をそらせている。
 藺晨は、苦笑した。
 「さすがは蒙大統領だな」
 「わたしはまた何かおかしなことを言ったか?」
 きょとんとしているこの男が、うらやましくなる。罪のないこと、この上ない。
 「いや。わたしは遠慮しておこう。ともかく、長蘇は預ける。大事に扱え。医者なら、そうだな。晏太夫を貸すから連れていけ」
 大事に扱えという言葉とは裏腹に、藺晨は大雑把に毛毯で梅長蘇の身体を包むと、そのまま乱暴に抱き上げた。
 「―――-藺晨、せめて着替えを」
 長蘇がささやかな抵抗を示した。
 「莫迦を言うな。身なりを整えるだけで疲れ果ててしまうだろうが。出かけるどころではなくなるぞ」
 しかし、とまだ長蘇は納得がいかない様子だ。
 苛立ちが、湧き上がる。
 「少しくらいめかし込んだところで、病人は病人にしか見えん」
 殊更突き放したように、そう言い捨てた。
 蒙摯の腕に抱きとられた長蘇は、儚げな眼差しをこちらに向ける。
 「藺晨、―――すまない」
 柄にもなく、しおらしいことを言う。
 そんなふうに言われれば、何も言えなくなるではないか。惚れた弱みである。
 「わたしは医者だからな。自分の患者に今どんな治療が一番必要か、わからなくてどうするのだ」
 乱れた髪を、指で梳き上げてやる。
 「大統領。悪いが馬車に同乗して、なるだけ揺れから守ってやってくれ」
 「こ、心得た」
 軽いが長身の長蘇をおっかなびっくりの様子で抱いて、蒙摯が出ていくのを見送りながら、藺晨は軽くため息をついた。甄平は晏太夫を呼びに行き、この場には黎綱が残っている。 
 「わたしは度量が広かろう?」
 苦笑いしてそう尋ねる。黎綱は俯いた。
 「正直、驚きました」
 「ふん」
 藺晨は鼻を鳴らすと、扇子の先で口元を隠して欠伸を噛み殺した。
 このところ、梅長蘇の看護で寝不足だ。
 (―――今夜は久しぶりにゆっくり眠るとするか)
 我ながら、負け惜しみであると知りつつ、藺晨は心中そうひとりごちた。




   * * *




 「‥‥‥蒙大哥?」
 馬車に揺られながら、梅長蘇は律儀に自分を抱え込んでくれている蒙摯へ声をかけた。
 「どうした? 気分でも悪いか?」
 蒙摯が慌てて顔を覗き込んでくる。
 梅長蘇は首を振った。
 「では、なんだ?」
 「‥‥‥殿下は‥‥‥、何か言っておいでだったか?」
 我知らず、声が震えた。
 「何かと言われても―――。頻りに案じておられたとしか」
 「案じて‥‥‥」
 景琰に会えると思うと、それだけで胸が苦しくなるほど嬉しい。しかし、それ以上に。
 ―――怖い。
 あの日はただ景琰を守りたい一心で、正直ほかには頭がまわらなかったのだ。
 林殊であると知られたからは、これまで欺いてきたことを咎められても仕方がない、そんなことを思いはしたが、先のことまで考える余裕はなかった。先のことどころか、あの場を切り抜けられる保証さえなかったのだ。
 毒酒を飲み干す覚悟を決めた自分を、しかし景琰は見捨てなかった。
 どこかで―――、それを期待していた自分がいる。景琰と林殊の絆に、自分は心の内のどこかで甘えてもきたのだ。
 それだけに、養居殿を出るまでの沈黙が、ひどく身に堪えた。
 黙って前をゆく景琰の背中が、ひどく遠く感じられたのだ。
 頭は半ば朦朧として、身体は鉛のように重く、一足一足、前へ踏み出すのにひどく骨が折れた。今にも力尽きそうになりながら景琰の後ろを歩きつつ、これは罰だ、と梅長蘇は思った。
 どのみちもう―――、かつての林殊と景琰には戻れぬ。そして、閨を共にした情人同士にも、もう戻れはしないのだと。
 ならば一体‥‥‥、と梅長蘇は思った。
 どんな顔をして、この先、景琰に会えばよいのか。まだせねばならぬことは残っているというのに、一体どうすれば。

 「わたしは―――、誰だ?」
 梅長蘇は蒙摯の腕に顔を伏せた。
 「誰って、‥‥‥小殊だろう?」
 単純で、明快な答え。 
 蒙摯に訊いた自分が愚かだ。
 景琰の前で、自分は一体、誰であればよいのか。景琰を、なんと呼べばよいのか。そんなことさえ、わからなかった。
 息が苦しくなって、蒙摯の胸に額を押し付けた。
 「少し黙らんか。着くまで大人しく眠っておれ」
 隣に座っている晏太夫の、不機嫌な声が聞こえた。さぞ仏頂面をしていることだろう。
 梅長蘇は素直に頷いて、目を閉じた。
 逆らおうにも、既に眼を開けていられなかったのだ。 


  


   * * * 


 

 「小殊」
 浅い呼吸で、薄い胸が上下している。
 容体は、よくない。
 蒙摯に抱かれて、眠っているというよりは、むしろ気を失っている梅長蘇が運び込まれてきたとき、景琰は頭に血がのぼったものだ。
 「どういうことだ、蒙大統領。なぜ連れてきた」
 自分が迎えにいけと言っておいて、なぜ連れてきたもないものだったが、その時は本気で腹が立ったのだ。
 血の気のない顔、ぐったりとした身体、乱れた髪。
 ひったくるように、蒙摯からその細い体を抱きとった。その拍子に、力のない腕が、毛毯からだらりと垂れた。
 一瞬、息が止まりそうになる。生きておらぬのかと、錯覚したのだ。
 実際、それが骸だと言われても容易に信じてしまうほど、梅長蘇は蒼ざめ、弱っていた。
 「こんな病人を動かして、大丈夫なのか。医者は何をしている」
 ごほん、と傍らで咳払いが聞こえた。その時になって初めて晏太夫に気づいた景琰は、思わず食って掛かった。
 「医者のくせに、これが動かしてよい容体かどうかもわからぬのか!?」
 晏太夫は不快げに眉をひそめた。 
 「儂が連れてこいと行ったのでもないし、儂が動かしてよいと言ったのでもない。当たられても困る」
 「殿下。連れて行ってよいと言ったのは、藺閣主で‥‥‥」
 横から慌てて蒙摯が口添えした。
 「藺閣主?」
 そういえば、琅琊閣の閣主にして当代きっての名医であると、蒙摯から聞き及んでいる。なにが名医だ、と腹が立った。
 「気に入らぬなら儂は帰るぞ」
 踵を返そうとした晏太夫を、慌てて呼び止める。
 「待て。失礼した。頼む。小殊を見てやってくれ」
 忌々しいが、梅長蘇の身体をよく知る医師が必要だ。
 晏太夫はしぶしぶうなづいた。
 「鍼を施してはみますが、それですぐによくなるくらいなら疾うに恢復しておりましょう。日にち薬と申すほかありませんな」
 そう言って梅長蘇に治療を施すと、晏太夫は蒙摯に案内されて母屋の客房へと去った。
 ふたりきりで残されてみると、ひどく心細い気分にさせられた景琰であった。


 やがて、午刻である。
 薬を飲ませてやらねばと思うものの、梅長蘇は一向に目覚める気配がない。晏太夫からは、薬の時間には起こして構わぬと言われている。
 「どうせ放っておけば一日中でもうとうとしておる。叩き起こして飲ませればよい」
 そんなひどいことを言われた。
 (まったく、蘇宅の医者は揃いも揃って)
 景琰は溜め息をついて、火鉢の上の陶製の手鍋から、煎じ薬を椀に注いだ。
 「―――小殊。小殊」
 起こすのが可哀想だと思いながらも、薄い肩をそっと揺さぶる。梅長蘇はようやく目を開けた。
 「‥‥‥殿下」
 「薬だ。飲め」
 抱き起こしてやり、口許へ椀を宛がう。少しずつ傾けてやると、梅長蘇は黙って大人しく薬を飲んだ。
 「―――苦いのであろうな」
 なんとなく気の毒になってそう言う。
 「‥‥‥少し」
と梅長蘇は答えた。
 気まずい沈黙のあと、梅長蘇がようやく目を上げた。
 「―――殿下」
 「なんだ?」
 梅長蘇の目は、悲しいほど澄んでいる。口を開くまでは躊躇うふうだったのに、一度覚悟を決めるともう怖じることもなく、まっすぐ見つめてくる。
 「もっと‥‥‥、お怒りになっているかと、思っておりました」
 「―――何を怒るのだ」
 わかっていながら、そう問わずにいられなかった。
 梅長蘇は、あるかなきかの微笑を浮かべたように見える。
 「ずっと、‥‥‥偽っておりました」
 「―――そうだな」
 しかたなく、そう答えた。
 「長い間‥‥‥、殿下を欺いておりました」
 「ああ、見事に欺かれた」
 いつぞや梅長蘇が言っていた己の罪とは、そのことであったのだと、今更ながら思う。
 その罪を抱えて、二年の歳月、欺き通した。
 「腹がお立ちになって当たり前かと」
 「ああ。‥‥‥そうだな」
 なぜ教えてくれなかったのかと。
 悔しくて泣いた。母の前で。
 知ってさえいれば、もっと上手く立ち回れた。全てを林殊に背負わせたりなど、しなかった。
 だが、それこそが、林殊の最も怖れたことであると、一時の激情が通りすぎた今は思う。
 知ってしまえば、景琰は自分が主導権を握らずにはいなかったろう。病んだ友をどうして矢面に立たせることが出来ただろうか。
 しかしそれでは、林殊の思惑から外れてしまうのだ。自分は、林殊が望む旗頭となり、林殊の望む形で父皇からこの国の治世を引き継がねばならぬ。この簫景琰の性分を知り尽くしていればこそ、梅長蘇は決して己の正体を明かしはしなかった。
 悲しくはあるが、責めることは出来ぬ。
 にもかかわらず、梅長蘇は己を責めているのだ。
 「もうよい、小殊。おまえが悪いのではない」
 むしろ、梅長蘇が現れるまでの十二年、ただ手をこまねいて真実を糺そうともしなかった自分こそが、咎められるべきだというのに。
 何一つ、してやれなかったのだ。友のために。
 ただ、嘆くことと、偲ぶこと以外、何一つ。
 「小殊」
 あの頃とは似ても似つかぬその姿を、景琰はそっと抱き締める。
 「‥‥‥殿下」
と梅長蘇が悲しげに答えた。
 景琰ではなく、殿下、と。


 悲しくて。


 ―――泪がこぼれた。

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~ Comment ~

泣けてしまいます

遥華さん、初めまして。
いつも読ませていただいています。
放送1巡目の琅琊榜ロスの時に、ロス仲間を探して、遥華さんや江左盟(萌?)日本支部の皆さんにたどり着きました。
(今まで、人見知りして、なかなかコメントできなかったのですが…。)

遥華さんの作品は、どの登場人物にも必ず、希望というか淡い救いがあって、とても好きです。
毒蛇シリーズは、誉王に思わず感情移入して、ほんとに泣けてしまいました。

毎日続編を楽しみにしています。
応援しています。

>>Rintzuさん

初めまして!!
レスが遅くなってごめんなさい!!
読んでいただいているとのこと、ほんとにほんとにほんとに嬉しいです

希望があると言っていただけて嬉しいです。
琅琊榜の登場人物はみんな好きなので、
みんなに幸せになってほしいのです・・・・(>_<)。
特に宗主ですが。

毒蛇、気に入っていただけて嬉しいです。
なんとなーく気まぐれに始めたシリーズだったんですが、
書いてるうちにわたしも誉王が大好きになりましたw

NoTitle

遥華さん、お返事有難うございます!
勇気出してコメントして良かった~。
(ただの人見知りです…)
毎晩、読んでます、大好きです!

誉王、最初は「優雅だけどキザで嫌味な皇子」の印象だったのですが、話が進むにつれて、「愛が欲しかっただけなのでは…」と思うようになりました。
特に、出生の秘密が描かれてからは。
終盤は、気の毒すぎて可哀そうなくらいでした。
ええ、元凶は全て父皇ペンギンですよね。

宗主は、結局、やりたいことをやり終えたのだと思います。
個人的要望ですが、藺晨も幸せにしてやってください。

>>Rintzuさん

誉王殿下、本当に気の毒すぎますよね。
あのかたは、本当ならもっとよい皇子になれたと思うのですよ。
持っているものは決して悪くはないのですから。
でも、よくもわるくも『高貴』すぎて。
それなのに、実は本人がそうあらんと望むほど『高貴』な身ではなくて。
可哀想ですよね。
宗主みたいな人が一生そばで手綱を弾いてくれれば、
きっとよい皇帝にもなれたんじゃないかと思うのですけどねえ・・・。

『情人』の続編として、藺蘇を用意しています。
『情人』がうまく終われなくて、いま困っていますが、
なんとか力技で続編に持っていきたいと思っていますw
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
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