琅琊榜

后援 (『琅琊榜』 #1以前)

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チビ藺蘇の続きです。

 楽しみにしていたのだ。

 長蘇が来たら薦めようと思っていた書物。
 長蘇が来たら見せたかった画軸。
 長蘇が来たら食べさせようと決めていた菓子。
 長蘇が来たら教えたかった剣の技。

 長蘇が驚く顔や喜ぶさまを、繰り返し繰り返し思い描いた。
 口にこそ出さなかったが、次はいつこの琅琊山を訪れてくれるのかと、気にかかってならなかった。
 それなのにである。

 「ああ、それなら景琰も言っていた」
 こともなげに、長蘇は言うのだ。
 「その書なら景琰に見せてもらったことがある」
 「その画家の絵を景琰からまえに貰ったんだ」
 「この菓子、景琰の母上が作ると格別に旨いんだ」
 「景琰も、その剣法を習うと言っていた」

 景琰景琰景琰景琰。

 全て景琰に、先を越されている。

 不利ではないかと思う。
 こちらは半年以上も会えなかったのだ。
 思い立ったとて、すぐには長蘇と語らうこともできぬ。後手に回るのはしかたがない。
 悔しかった。

 楽しみにしていた分、ひどく悔しくて、がっかりした。
 それでつい、憎まれ口を聞いたのだ。

 「景琰がおらねば、夜も日も明けぬと見えるな」

 途端に、長蘇は顔に朱を散らせた。
 その反応が可笑しくて、追い討ちをかけてしまう。

 「いっそ嫁にでもしてもらえばよい」

 長蘇は硬い表情でしゃがむと、足元の土くれを両手で掴んで、思い切りよく投げつけてきた。
 「ッ! なにするんだ、眼に入ったらどうしてくれる」
 思わず両腕で顔をかばった藺晨が薄目を開けると、もう長蘇は背中を向けて去っていくところだった。
 その両肩が、怒りで強張っていた。



   *



 「うちの倅がまたつむじを曲げているようだが、小閣主、さては喧嘩でもしたか」
 夕餉の席を早々に立っていった長蘇を見送って、石楠が藺晨に笑いかける。
 食事の間も、長蘇は一言も口をきかなかった。眉を寄せて、黙々と箸を動かしていただけである。
 「やれ、困ったものだ。大方、これが長蘇どのの気に障ることでも申したのであろ。誰に似たのか、口が達者で困っておるのさ」
 父が、気楽な調子でそう言うのを藺晨は軽く睨んだが、自分で文句を言うまえに、石楠が一矢報いてくれる。
 「口達者はそなた譲りに決まっておろうが。そなた、一見おっとりして見えるが、なかなかどうして辛辣な物言いをする」
 「わたしが?それは聞き捨てならぬね」
 父が眉をひそめる。
 互いに相手を挑発しあっては喧嘩を楽しむこの大人たちに、自分と長蘇の微妙なずれなど理解できるはずもない。
 藺晨は楽し気に口論を始めた父親らを尻目に、そっと部屋を出た。

 回廊を歩いていると、庭の向こうの客間で長蘇が何やら慌ただしく立ち座りしているのが見えた。怪訝に思って、廊下を回る。
 「長蘇?何をしている?」
 声をかけると、長蘇がびくんと手を止めた。
 辛抱強く答えを待っていると、長蘇は少し顔を背けてぽつりと言葉をこぼした。
 「―――帰る」
 「え?」
 思わず、聞き返す。
 なるほど、荷物の整理をしているのは見ればわかる。だが、「帰る」とは?
 「今から帰って、明日は景琰と遊ぶ」
 頑なな口調で、長蘇はそう言った。
 心底呆れて、藺晨は目を瞠る。
 「莫迦を言うな。幾らも行かぬ内に日が暮れる。足場の悪い難所だらけなのは、おまえも知ってるだろう」
 冗談ではないと思う。いかに身が軽くとも、山に不慣れな長蘇が、夜に琅琊山を下りるなど、もってのほかだ。山の夜闇がどれほど濃いか、都育ちの長蘇には充分にわかっておらぬのだ。
 「うるさい。帰るといったら帰るんだ」
 まとめた荷物を引っ掴むと、長蘇はきつい眼差しで藺晨を睨みつけ、どん、と身体ごと体当たりするようにして回廊へと出た。
 振り返って、眉を怒らせる。
 「景琰がいなきゃ夜も日も明けないんじゃない。一生、景琰のことをそばで支えていきたいだけだ」
 悔しそうにそう言い残して背を向け、庭へと飛び出した。
 藺晨は、唖然としてその背中を見ていた。
 「勝手にしろ!」
 
 一生だと? と藺晨は思う。
 生涯を賭けて、そばで支えたいなどと。
 (それでは、嫁に行くのと大差ないじゃないか)
 


   *



 「あの大たわけめ、なんという愚かな真似を」
 やれやれと石楠がため息をついた。
 「わたしが連れ戻そう」
 父がそう言って立ち上がりかけたが。
 「よいわ。放っておけ」
 鼻息も荒く、石楠が吐き捨てるように言う。
 「しかし、命にかかわりかねん」
 眉をひそめた父に、石楠は苦笑した。その苦渋に満ちた笑みには、子供である藺晨にさえ、息子を案じる石楠の気持ちが見て取れたが。
 「こんな阿呆な真似をして死ぬなら、それもあの子のさだめよ」
 運があれば、無事に山を下りられよう、と石楠は言う。
 父は少し困ったように頤に拳を当てていたが、
 「ならばこうしよう。小晨。お前が探して参れ」
と藺晨を振り返った。
 不意の指名に、藺晨はびくっとする。
 「閣主どの、それは」
 石楠が顔をしかめたが、父は片頬に笑みを浮かべる。
 「こやつならば琅琊山は庭のようなもの。夜目も効く」
 「しかし」
 いかに慣れた山でも、危険に変わりはない。石楠も、それは重々承知しているのだ。
 だが、父は意地の悪い笑顔で藺晨を見た。
 「第一、そなたが止めなんだのが悪い。長蘇どのを怒らせるようなことばかり言いおってからに。行ってくれような?」
 真綿で首を締めるようなその物言いに、藺晨は生唾を飲んで頷いた。




 とっぷりと日が暮れた宵の山道を、藺晨はとぼとぼと下っていた。
 止めなかったのは確かに自分が悪い。
 だが、悔しくて、声すらかけられなかったのだ。
 (わたしが友と認めてやったというのに)

 長蘇は、藺晨にとって特別だ。
 琅琊閣に召し抱えられている少年たちや、麓の村の子供たちとはまるで違う。ただひとり、友と認めた相手だというのに。
 その相手は、幼馴染の従兄の姿しか眼に入らない。いや、今だけなら構わない。だが、一生と言われると、ひどくやるせない気分になった。 

 歩くうちに、あっという間に真っ暗になった。
 漆黒の闇である。
 山の夜闇に眼が慣れていなければ、一歩も踏み出せはすまい。
 だが、怖いもの知らずの長蘇ならば、危険を冒しても進むに違いない。景琰のもとへ帰りたい一心で。
 「長蘇! 長蘇!」
 不意に不安に駆られて、藺晨は友の名を呼んだ。
 そうする間にも、藺晨自身、足を滑らせそうになる。いかに齢のわりに軽功に優れているとて、自分がまだまだ全てにおいて父の足元にも及ばぬことは、藺晨が一番よく知っている。己の未熟さを理解できる、聡い子供であった。それが悔しくもある。

 かさ、と音がした。
 岩の裂け目を潜り、沢の飛び石を渡って、藺晨はきょろきょろと辺りを見回した。
 真っ暗である。
 微かな星明かりに目を凝らす。岩場の隙から逞しく繁った藪の陰に、何か動くものが見えた。
 「長蘇?」
 答えは、ない。
 「―――長蘇か?」
 声も出せぬほど、ひどい怪我でもしているのだろうか。いや、長蘇だとは限るまい。何か人ではない別の獣であったら、文字通り藪をつついてとんでもない災厄を招きかねない。
 そろりと近づいてみる。
 視線の先、さっと藪の中へ引っ込んだのは、人の足先に間違いなかった。それも、小さい。大人のそれではなかった。
 ほっとして、藺晨が駆け寄ろうとすると。
 「莫迦! 来るな!」
 長蘇の声がした。安堵で、全身から力が抜ける気がした。と同時に腹が立つ。
 「莫迦とはなんだ。そんなところで何やってる。とっとと出てこい」
 「―――いやだ」
 頑迷に、長蘇の声がそう言った。
 「いい加減にしろ。お父上もどれだけ気を揉んでおいでか」
 ずかずかと藪のほうへ歩み寄っていくと、長蘇の声が高くなった。
 「莫迦莫迦莫迦莫迦、あっちへ行け!」
 「こいつ、何回人を莫迦呼ばわりする気だ!」
 がさっと藪をかき分けた。
 そして、藺晨は呆気にとられる。
 「おまえ‥‥‥」
 藪の中で、小さく身を丸めた長蘇は、全身濡れ鼠だった。
 「‥‥‥莫迦はお前だろう。―――こんな濡れた身体で一晩明かす気だったのか」
 手を伸ばして冷えきった腕を引くと、途端に「いたっ」と声が上がった。
 藺晨は顔をしかめる。
 「大袈裟な声を出すな。そんなに強く握っては‥‥‥」
 言いかけて、藺晨は眉をひそめた。長蘇のもう一方の手が、足首をきつく押さえている。
 「足を、どうした?」
 「ちょ、ちょっと捻っただけだ」
 沢の飛び石を渡るときに足を踏み外したのだろうことは、想像に難くなかった。その時に、足を挫いたに違いない。
 「‥‥‥歩けないのか?」
 「ばっ‥‥‥」
 また莫迦と言おうとしたらしい長蘇が、今度は言葉を切って、少し目を逸らせた。
 「―――歩けないわけないだろう」
 そう言った声は、しかしどこか頼りなげだ。
 「なら、歩いてみせろ」
 そう言うと、反射的に睨みつけてくる。
 「なんでお前に命令されなきゃならないんだ」
 その強情さに、藺晨は溜息をついた。
 「‥‥‥やっぱり歩けないんだろう?」
 「ちっ、ちが‥‥‥」
 ふと、気づく。握った手が、震えていた。
 当たり前だ。濡れそぼって、山の夜気に晒され続ければ。
 「―――ほら」
 藺晨はくるりと背中を向けてしゃがんだ。
 「え?」
 「‥‥‥負ぶってってやる」
 そう言ったが。
 「無理に決まってるだろ! 背丈だって幾らも違わないのに」
 「無理じゃない。おまえほどちびではないし、わたしはこの山に慣れている。軽功もおまえより優れているからな」
 背中を向けたまま、落ち着いた声で藺晨はそう言った。
 不安にさせてはならない。
 きっと、大丈夫。
 大切な友のひとりくらい、守れなくてどうするのか。
 「―――それでも、明るくなってからのほうが‥‥‥」
 心細げな声で、長蘇が言った。藺晨が背中を向けて顔が見えないことで、ようやく意地を張るのはやめたらしい。
 「それまで濡れ鼠のままでいる気か」
 「一晩くらい、どうということもない。わたしは寒さに強いんだ。―――いずれは父上のあとを継いで北の守りにつくんだ。これくらい‥‥‥」
 言い募ろうとする長蘇を、藺晨はしゃがんだまま肩越しに振り返った。
 「―――わかった。わたしが悪かった。今日のことは謝るから、今だけ大人しく言うことを聞いてくれ」
 我ながら、哀願するような口調になった。 
 「藺晨‥‥‥」
 長蘇はしばらく、ぽかんと口を開いていた。
 そして。
 「うん‥‥‥」
 軽い身体が、背中にかぶさってきた。



   *



 ひょこひょこと、片足を軽く曳きながら、長蘇が庭をやってくる。
 昨夜はさすがにぐったりした様子だったが、今朝はもう何ごともなかったかのようだ。
 「おい、足下が悪いから気をつけ‥‥‥」
 言いかけて藺晨は「ああ‥‥‥」と額を押さえた。注意を促すより早く、長蘇が石に躓いてうつぶせに転んだのだ。
 「全く、おまえときたら生傷の絶え間がないな」
 そう言うと、うつぶせのまま顔だけ上げた長蘇が、頬を膨らませながら言った。
 「‥‥‥しかたないから、手当てさせてやる」
 させてやるは無いだろうと思うが、精一杯の照れ隠しだと思うと可笑しかった。
 「これくらい、唾をつけときゃ治る」
 長蘇の前にしゃがみこんで、額の擦り傷に口を寄せる。舌先を出そうとした途端。  
 「莫迦ッ! やめろ、汚い!」
 慌てて跳ね起きた長蘇が、後ずさった。
 「汚いとはなんだ、汚いとは! もういっぺん言ってみろ」
 「何度でも言ってやるったら。汚い汚い汚い!」
 いーッとして見せた長蘇の、紅潮した顔が可愛かった。
 「こいつ」
 捕まえて羽交い絞めにして、あちこちくすぐってやる。
 「莫迦、やめろ! くすぐったいッ」
 長蘇が暴れながら笑った。
 やっと、笑ってくれた。
 「おまえ、昨日から何回わたしを『莫迦』呼ばわりしたか知っているか?」
 「莫迦、そんなの、知るわけない」
 目尻に涙を溜めて笑いながら、藺晨の手から逃れようともがく。
 「今ので七回だ」
 そう言って手を止めると、長蘇はびっくりしたように藺晨の顔を見上げた。
 「―――数えてたのか。‥‥‥莫迦じゃないのか」
 「八回め」
 ぷっ、と長蘇が吹き出した。
 「藺晨、おまえって、ほんと、莫迦なのな」
 地面に転がってげらげら笑う友が、心底可愛かった。
 そして、つい口にする。
 「景琰なら」
 「ん?」
 怪訝そうに、長蘇が首をかしげた。
 「景琰なら、汚くないんだろ」
 「え?」
 しばらく瞬きをしていた長蘇が、
 「ああ‥‥‥、そういえば」
とつぶやいた。
 「転んで手を擦りむいた時、景琰が舐めてくれたことがある。皇子のくせにって振り払ったけど、あんまり嫌じゃなかったな‥‥‥」
 素直にそう返されて、藺晨は苦笑いした。
 「―――やっぱりな」
 「なんでやっぱりなんだよ」
 藺晨は笑って長蘇の手をとり、立たせてやると、衣服についた土を払ってやった。

 「あの時、‥‥‥そんなに腹が立ったか。わたしに揶揄われたことが」
 長蘇を庭石に腰かけさせ、その前にしゃがんで藺晨は友の顔を見上げた。
 「―――うん」
 小さく、長蘇が頷くのを見て、藺晨は目を伏せる。
 「‥‥‥悪かった」
 切なかった。今、目の前にいる長蘇が、ひどく遠い。
 長蘇もまた、小さくため息をこぼした。
 「わたしが景琰を思う気持ちは、特別なんだ。それを茶化されれば、悔しいし、悲しい―――」
 心底悲しげに、長蘇はそう言った。
 「―――悪かった」
 もう一度、藺晨は言った。
 だが、と思う。
 ならば、自分が長蘇を思う気持ちは? やり場がないではないか。
 「藺晨」
 「なんだ?」
 急に改まって向き合われると、どうも居心地が悪い。
 「―――謝謝」
 「え?」
 一瞬、何を言われたかわからなかった。
 「助けてくれて、謝謝。まえの時も、ちゃんと言えてなかったから」
 ああ、と思う。
 いや、前のときも、ちゃんと礼は言ってもらったはずだったが。
 「景琰の為にも、わたしは自重して立派な大人になって、立派な将帥にならなきゃいけないんだ。だから、助けてくれて、ありがとう」
 景琰のために。
 ほろ苦い思いで、藺晨はその言葉を聞いた。
 景琰のためにおまえを助けたわけじゃない、と。そう言い返したかったが。
 「藺晨?」
 うなだれた藺晨の顔を、長蘇が覗き込んでくる。
 「わたしはそんなに景琰の話ばかりしているか?」
 藺晨は苦笑いした。
 「‥‥‥そうだな」
 「―――そっか」
 そのまま黙り込んだ長蘇と背中合わせに、藺晨も庭石に腰かけた。
 背中が、温かい。昨夜は冷たかった友の身体が、こうして温かく健やかなのが、嬉しかった。

 しばらく黙って二人でもたれ合っていた。
 やがて、長蘇がぽつりと切り出す。
 「でも、昨夜、考えたんだ」
 真摯な声音で、長蘇はそう言った。
 「わたしが景琰を大事に思うみたいに、わたしの周りにはわたしを大事に思ってくれる人が、いっぱいいるんだなって」
 足をぶらぶらさせている長蘇の揺れが、背中に伝わる。
 「父上や母上や、屋敷の者たち、赤羽営のみんな、霓凰やお婆様や‥‥‥」
 長蘇が身の周りの人々の名を次々に挙げる。
 自分もその一人だと、口に出して言うのは、藺晨にとって照れ臭かった。
 それでも、こんな話を切り出したからには、長蘇にはもう充分わかっているのだろう。
 
 「ほんとは、嫌じゃなかった」
 小さな声で、長蘇が言った。
 「‥‥‥?」
 なんの話だ? と、怪訝に思った藺晨が振り返る前に、早口で長蘇は言った。
 「この次は、舐めさせてやってもいい」
 思わず、藺晨は目を瞠る。そのまま後ろを振り返って、背中から長蘇の小柄な体を羽交い絞めにした。
 「こいつ」
 長蘇が身体をねじってこちらを向く。
 悪戯っぽい笑みを浮かべている長蘇の柔らかい頬を、藺晨は指でつまんだ。そうしておいて、藺晨は素早く長蘇の額にくちづける。
 擦りむいた傷は、もう乾いて瘡蓋が出来かけていたが。
 その、まだ軟らかい瘡蓋の感触を惜しみながら、藺晨は顔を離した。
 「この次は、って言ったのに」
 長蘇は少し口を尖らせたが、本気で怒ってはいないようだ。
 「‥‥‥次など、なくていい」
 藺晨は長蘇の頭を撫でた。長蘇は、猫のように目を細めている。
 「怪我も病気もせずに、元気でいてくれればそれでいい」
 真実、そう思った。
 いつの日も、健やかで、と。
 長蘇は心持ち首を傾ける。
 「ん‥‥‥。わたしは武人だから、怪我をせずに暮らすのは難しいかもしれないけれど、丈夫だから病気には罹らないと思う、たぶん」
 よく日に焼けた顔が、快活に笑った。
 「そうだな。あれだけずぶ濡れになっても、風邪ひとつひかなかったんだからな」
 「うん」
 健やかな友の顔を、藺晨は眩しい思いで眺めた。
 武人だから、と言ったときの長蘇は誇らしげだった。
 国を守り、民を守り、主を守り、景琰を支える。長蘇の心のよりどころがそこにあるなら、しかたがないではないかと思う。
 自分は、簫景琰にはなれない。
 簫景琰にはなれないが、自分だからこそしてやれることがきっとある。
 たまにしか会えずとも、思いの強さは誰にも負けない。

 いつでも。
 待っていよう、と藺晨は思った。
 長蘇が困ったとき。すぐに手を差し伸べてやれるように。

 藺晨の思いを知らぬげに、長蘇は空を仰いでいる。
 藺晨もまた、長蘇の隣に腰を下ろして、青い空を見上げた―――。 

 

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