琅琊榜

效劳 (『琅琊榜』 #1以前)

 ←蝉蜕26 (『琅琊榜』 #54以降) →母亲 (『琅琊榜』)
衛崢視点で書いてみたくなりました。でも、原作では赤焔事案以前から奥さんと夫婦だったか恋仲だったかみたいで、奥さんは12年間待ってたようですね。

 「素玄どの。一手、ご教授願えまいか」
 そう言って、梅長蘇はゆかしい笑みをその白い貌に刷いた。
 「宗主」
 黎綱が慌てて口を挟みかけたが、梅長蘇の微笑がそれを抑えた。
 ほう、と衛崢は目を細める。この美しい優男が、黎綱を視線一つで黙らせるとは、と。それほどの威厳があるようにも思えぬ。
 さては、黎綱のやつめ、この美しい男に懸想でもしたか、と半分冗談で、衛崢は内心そう思った。
 「梅宗主は、武芸をたしなまれぬと聞き及びますが」
 「ええ。御覧の通りのひ弱な身体ゆえ。武功を鍛えようにも、わたしには内力と言うものが備わっておりません。されど、形ばかりの真似事であれば」
 少し面映ゆげに目を伏せて、梅長蘇はそう言った。
 「宗主、お身体に障ります」
 黎綱が未練がましくそう言って、忠実な犬のように主の顔色を窺ったが、当の主は素知らぬ顔だ。
 衛崢にとって、黎綱は身分こそ自分より低いものの、同じ釜の飯を食った仲間である。その黎綱を、かくも軽々しく扱われては、なんとなく腹の虫が収まらなかった。
 「判りました。お相手いたそう。黎綱、案ずるな。わたしの方から技は繰り出さぬ。ほんの数手、受けさせていただくだけだ」
 場合によっては少々痛い目くらいは見てもらうことになるやも知れぬが、と衛崢はかすかに笑った。
 梅長蘇は満足げに微笑むと、外套を黎綱にあずけ、細身の剣を手に取る。
 互いに抱拳で礼をとり、衛崢は「請」と相手を促した。
 ふわり、と梅長蘇の身体が踏み込んでくる。その剣を、衛崢は難なく払った。
 なるほど、梅長蘇の剣は軽い。内力が無いというのは、どうやら真のようであった。
 しかし、その外功は、見よう見まねとも思えない。二手、三手と受けて、さらにその思いは強くなる。梅長蘇の剣は、ひとかどの修練を積み、更には場数も踏んだ者のそれに思えてならぬのだ。
 そして、この剣筋‥‥‥、どこかで―――
 そう考えたとき、ひゅっと梅長蘇の剣先が喉元に迫ってきた。紙一重でかわしたが、この迅さで続けざまに踏み込まれれば、さすがに躱し続ける自信がない。が、梅長蘇は既に肩で息をしている。
 「宗主どの。それ以上はお身体に堪えよう。今日はここま‥‥‥」
 そう言いかけた衛崢に、梅長蘇はさらに畳み掛けるように技を繰り出してきた。
 人の好意を無にするとは、と舌打ちする間もなかった。
 (この技―――!)
 衛崢は真っ青になった。無論、内力の伴わぬ梅長蘇の剣など、雑作もなく弾き飛ばしはしたが。
 「宗主!」
 うずくまった梅長蘇に、黎綱が慌ててとりすがるのを、衛崢は呆然と立ち尽くして見ていた。
 (まさか‥‥‥)
 いま、梅長蘇が繰り出した技は。
 かつて。
 衛崢自身が、戯れに編み出したものであったのだ。
 赤羽営の練武場で。
 冗談半分で様々な型を作っては披露しあった。いずれも実践で使えるようなしろものではなかったが、この技に限っては、衛崢は少々自信があったのだ。それゆえにこそ、誰彼構わず見せる気にはならなかった。
 この技を見せた相手は、ただひとり。
 「少帥‥‥‥」
 思わず、そう口にしていた。
 黎綱の腕にすがって立ち上がった梅長蘇が、その眼差しを向けてくる。
 「衛崢」
 仄かに笑って、梅長蘇はそのまま気を失ったのである。



   * * *



 「無茶苦茶だな」
 藺晨が言った。
 「こんな体で手合わせなど、あきれて物が言えぬ」
 藺晨に支えられた梅長蘇は、叱られた子供のようにむすっとして、しぶしぶ薬湯を口にしている。
 「わたしのせいです。わたしの頑なな気質を慮って、少帥はかようなご無理を」
 おろおろして、衛崢は言った。
 「まことに、少帥でおいでなのですね」
 心許ない問いを衛崢が口にすると、梅長蘇は苦笑いした。
 「まだ信じられぬなら、もう一手所望するが」
 「滅相な」
と衛崢は言い、藺晨は「命知らずめが」と吐き捨てた。
 ぷっと笑った梅長蘇の顔は、衛崢の知るかつての主とは似ても似つかなかったが、それでもその仕草や表情には覚えがあった。
 「信じられぬのも無理はない」
と、幾分沈んだ声で梅長蘇が言う。
 「わたし自身とて、まだこの顔と体には馴染みきれぬのだからな」
 笑ってはいたが、梅長蘇の顔はひどく沈鬱に見えた。  
 「少帥」
 熱いものが込み上げて、言葉にならない。嬉しいのか、悲しいのか、衛崢には既によくわからなかった。
 自分だけが。
 死に遅れたと思っていたのだ。
 薬王谷に匿われ、衛崢は当初泣き暮らした。大の男が、と思う気概さすらなかった。
 失ったものが大きすぎ、怒りと悲しみで混乱仕切った衛崢には、もはや先のことなど思いも及ばなかった。憎い仇を伐とうにも、赤焔軍や林家ゆかりの者への探索の手はあまりに厳しく、都へ入れば忽ちのうちに捕らえられて、目指す敵の前にたどりつくまでもなく命を奪われるのは目に見えていた。それくらいならばいっそ、自刃して果てようかとも思った。が、谷主・素天枢に止められたのだ。
 乞われるがまま、薬王谷に腰を据えた。かつての師でもあった素天枢の恩に報いることくらいしか、衛崢には思い付かなかった。忠義を尽くすべき相手は既になく、根っからの武人であった衛崢は途方にくれていたのだ。
 薬王谷の養子としておさまり、名も変え、生まれ変わった気で義父に孝養を尽くした。勧めに従って妻を娶り、慈しんでもきた。
 それでも、夜毎の夢に見続けたのだ。赤羽営での日々。懐かしい同胞たち。厳しく頼もしかった主帥。そして、誰からも愛された少帥―――。
 (生きていてくれた‥‥‥)
 その喜びは、何よりも大きかった。だが、喜びが大きいがゆえにまた、その変わり果てた姿が悲しくもあった。
 主帥によく似た顔立ちと、しなやかで軽快な立ち居振る舞い、賢く抜け目のない、悪戯な‥‥‥、あの少帥が。
 この青白い貌をした、ひ弱な男が、我らの少帥だなどと、確かに俄には信じがたい。
 そんな衛崢の思いに気づいてか、梅長蘇は慎ましい微笑を翳らせた。衛崢も慌てて俯く。
 変わり果てたその身を一番受け入れがたく感じているのは、ほかならぬ林殊自身に違いない。無理を押してこの自分に手合わせなど望んだ心持ちを思うと、胸が揉み絞られるように痛んだ。

 黎綱が甄平と共に江左盟に身を寄せたと知らせて寄越したのは、赤焔事案から一年余りもたった頃であったか。衛崢が若き日に薬王谷で修練したことを、黎綱は覚えていたのだ。以来、細々と親交が続いた。
 薬王谷が琅琊閣と商いで誼を通じるようになったのも、その頃からであったろうか。
 先日、薬草の取引で、琅琊閣閣主自ら薬王谷へ出向いてくると知らせを受けた。時を同じくして、黎綱から連絡があったのだ。おのが主、江左盟宗主はかねがね薬王谷と懇意になりたいと言っている。琅琊閣とは昵懇の間柄ゆえ、此度、藺晨に同行させてもらうことになった。ついては黎綱も主の伴をして薬王谷を訪れるというのである。
 琅琊閣と江左盟のつながりについては初耳だったが、かつての赤羽営の同胞に会えることはこのうえなく嬉しかった。妻に笑われるほど舞い上がって、今日の日を待ったものである。
 そして。
 初めてまみえた梅長蘇は、まるで慎ましくうなだれた白ゆりのごとく清楚で嫋やかであった。衛崢の妻は琅琊美人榜首位をとる美形なれば、美しい顔は見慣れていたが、梅長蘇のそれは、不思議に衛崢の心を引き付けた。義父が藺晨と話をする間、幾度も梅長蘇と視線が絡んだが、その度に衛崢はなんとなく目のやり場に困って、顔をそむける羽目になった。
 商談もすみ、江湖の四方山話などに興じたあとで、義父は新しく開墾した薬草園を見せたいと藺晨を伴って座をはずした。そうして、梅長蘇が言ったのだ。「一手ご教授願えまいか」と。

 「なにゆえ、すぐに知らせなんだのだ」
 衛崢は黎綱を責めた。
 この数年、自分がどんな思いで生きてきたか、知らぬ黎綱ではないはずだ。主に先立たれ、何ひとつできずに月日を重ねている己に対して、衛崢はどれほど忸怩たる思いに駆られてきたことか。
 林殊が生きていたなら、もっと早く知りたかった。そうしたら、どれほど心の痞えが下りたことだろう。
 「黙っているよう、わたしが申し付けたのだ」
 梅長蘇がそう言った。
 「せめて形ばかりでも、剣が扱えるようになってから、会いに来ようと思ったゆえな」
 そう言って笑った梅長蘇は、あまりにも美しかった。


   * * *


 紺碧の夜空に、饅頭を真っ二つにしたような半月が浮かんでいる。
 赤羽営での調練のあと、皆で奪い合うようにして饅頭をむさぼり食った。食いはぐれた衛崢に、「しょうがないなあ、半分だけだぞ」と笑って分け与えてくれた林殊の、砂埃にすすけた薔薇色の頬を思い出す。健やかに、伸びやかに、逞しく育った少年であった。
 見上げる月が、忽ちにじむ。衛崢の目から、涙が溢れた。
 梅長蘇の前でも衛崢は泣いたが、それは再会の歓びの涙であった。今、衛崢が流す涙は、もう二度とかつての姿に戻ることの叶わぬ林殊のためのそれである。
 この月影のごとくに、梅長蘇の姿は儚い。日溜まりのような笑顔を持った少年が、今や冬の月のようにひっそりと美しく凍えている。
 (お守りせねば)
と衛崢は思った。
 あの地獄の梅嶺から甦った林殊を、もう二度と傷つけたくはなかった。
 林殊が大人しく守られている男でないことくらい、衛崢にもわかっている。林殊の目指すものは、衛崢には痛いほどわかる。
 主帥から、林殊の副将としてあてがわれた日以来、手足の動く限りこの若き少帥を支えようと決めていたのだ。その主がこうして生きて戻ったからには、衛崢の行く道はひとつのはずだ。
 それなのに。
 「お前はこれまで通り、薬王谷で生きよ」
 梅長蘇は、そう言ったのだ。
 衛崢は、耳を疑った。
 黎綱や甄平をそばに置いて、なにゆえこの衛崢を遠ざけようというのか。
 「お前は赤焔軍の将軍として、名も顔も知られている。幸い、今のお前は琅琊富豪榜に名を連ねる薬王谷の跡取りだ。素天枢の養子として世に知られれば、むしろそれは格好の隠れ蓑となろう」
 「しかし、少帥‥‥‥」
 食い下がろうとして、衛崢も考えを改めた。
 林殊は何も、今すぐ都へ攻め上ろうと言うのではない。赤焔事案の真実を暴き、無念の内に散った同胞たちの汚名を雪ぎ、大梁の進むべき道を正す、そのために時をかけて臨もうというのだ。ならば、と衛崢は思った。
 己の足場をしっかり固めてこそ、林殊を支えてやれるのではないか。徒手空拳のまま側に仕えたとて、お尋ね者の自分は足手まといにこそなれ、大した役にもたつまい。
 「―――心得ました」
 歯を食いしばって、衛崢はそう答えた。
 薬王谷は人脈に富み、私財も豊かである。師であり義父である素天枢は、そのすべてを己に委ねると言っている。いずれ必ず、林殊の役にも立とう。
 火寒の毒。
 薬王谷で暮らすようになって、様々な薬や毒に通じた衛崢だが、その名を文献で目にしたことはなかった。
 林殊はその奇毒に侵されたのだという。それゆえ、容貌さえ変わり果てたのだと。
 林殊自身は多く語らなかったが、あとで黎綱が話してくれた。林殊の身体が並外れて脆弱なこと、そして恐らく、人並みに天寿を全うできまいことも。
 全力で支えたい、と衛崢は思った。
 そのために、いま自分に出来ることをするしかないのだと、衛崢は己に言い聞かせた。


   * * * 


 「少‥‥‥」
 翌朝、客房を訪れた衛崢は、少帥と呼びかけて、慌てて宗主と言い直した。
 義父が、梅長蘇を見舞っていたためである。
 素天枢には何も明かすなと、衛崢は言い含められている。無闇に秘密を明かして、他人を巻き込むことを林殊は嫌っているのだと、衛崢は合点した。
 「宗主、精のつく粥を作らせましたゆえ、どうぞお召し上がりを。こちらの汁物も、滋養のあるものをふんだんに使わせました。それから‥‥‥」
 義父が、弾けたように笑った。
 「こやつめ、すっかり宗主贔屓よな」
 「え、そのような‥‥‥」
 衛崢は狼狽えて、何か言い返そうと躍起になったが、義父は取り合う気もないらしい。
 「よいよい、わしとて宗主のことは買っておるのさ。病がちの身であるのがなんとも惜しい限りだが、なに、それとても、藺閣主が友とあれば案じるまでもあるまいよ」
 そう言って磊落に笑うと、「よくお世話せよ」と言いおいて客房を去っていった。

 梅長蘇が、小さくため息をつく。
 「衛崢、人前であまりわたしに懐きすぎてはならぬ。谷主はおおらかなたちゆえ、あれですんだが‥‥‥」
 「申し訳ありません。気を付けます」   
 意気消沈して衛崢がうつむくと、微かに笑い声がした。
 「しょうのない。以前はお前がわたしを嗜める側であったものを。これではあべこべではないか」
 衛崢は顔を上げた。この見知らぬ顔の若者から、そうして林殊の記憶が語られるのは、やはりなんとも奇妙な心地がしたが。それでも少しずつ、衛崢のなかで折り合いがつき始めていた。この男は、確かに林殊なのだと。己が守り、仕えてきた、あの少帥に違いないのだと。
 なんでもない会話の端々に、かつての林殊の面影を見る。
 (―――充分だ)
 姿形は変わりこそすれ、こうして生きていてくれた。
 衛崢の止まっていた時間は、再び動き出している。
 「少帥」
 思わず、梅長蘇の手をとっていた。
 かつての林殊とは似ても似つかぬ、白く嫋やかな手。強く握れば砕けてしまいそうなほどに。もう二度と、自慢の強弓を引くことも叶うまい。
 それでも。
 (わたしの少帥だ)
と、衛崢は改めて思った。
 (わたしの少帥が、帰っておいでになった)
 かつて林燮に誓った。生涯かけて、林殊を支えると。あの日、梅嶺で断たれたその誓いを、今日また衛崢は胸のうちで新たにする。
 今度こそ。
 生涯の主とするのだ。
 あの快活な少年は、もうどこを探してもおらず、ここにいるのは病にやつれた美しい若者だ。それでも、これは我が主。誰より大切な、唯一無二の相手であった。
 我が剣は。
 再びこのかたに捧げよう。
 我が命も。この主に預ける。
 梅長蘇の細い手に額を押し付けて、衛崢はまた泣いた。
 明日からは、もう泣くまい。この若き主に仕えられる喜びを胸に生きるのだ。
 主が宿願を果たすため、自分は影のごとく支えて行こう。
 「黎綱。少帥のことを、くれぐれも頼む」
 「―――承知」
 黎綱が、拱手した。


   * * *


 藺晨、梅長蘇の一行を、義父と共に見送る衛崢の胸は熱かった。
 ほっそりとしたその背を、藺晨の白い袖が覆う。藺晨に支えられながら馬車に乗り込む梅長蘇の美しい横顔を、衛崢は胸に刻んだ。
 病んだ身体に鞭打って、梅長蘇がこれから成そうとすることを思うと、胸が痛んだ。しかし、それを止めるすべもなく、また衛崢自身も林殊がそれを成し遂げてくれることを強く望んでもいる。
 せっかく拾った命を、できることなら大切に長らえてほしいと思う一方で、赤焔軍の汚名を、林殊の手で雪いでほしいと願う心も、あの日の梅嶺を知る衛崢の中にはあるのだ。
 (おいたわしい)
 けれど。
 誇らしかった。
 あの地獄を生き延び、病に侵されながらも、主帥や仲間たちの冤罪を晴らし、真実を白日のもとに晒す望みを少しも失ってはいない。
 馬車に乗った梅長蘇が、帳を引いて顔を見せた。
 儚げな姿をしてはいても、前を見据える曇りのない目は、幼い頃から知る林殊そのものであった。
 この国を守り、この国をよき未来へ導く、かつてそう夢を語った少年は、今もやはりその夢を果たそうとしているのだ。
 衛崢は、思いを込めて拱手し、深く頭を垂れた。

 遠ざかる馬車を、いつまでも衛崢は見送っていた。
 ぽんと肩を叩かれて初めて、我にかえる。
 「義父上」
 素天枢が、半ば呆れ顔で笑っていた。
 「何を呆けている。さてはそなた、梅長蘇に懸想でもしたか」
 そう言って義父は声を上げて笑い、自分の言った冗談がさも気に入ったかのように、上機嫌で邸へ戻っていった。
 ふ、と肩から力が抜ける。
 梅長蘇が林殊であると知る前、自分も黎綱のことをそのように思ったものだ。男が懸想してもおかしくないほど、梅長蘇と言う男は美しい。
 だが、人が惹かれるのは、梅長蘇の姿かたちではないことを衛崢は知っている。林殊と呼ばれた昔も、やはり人をひきつけてやまぬ少年であった。
 衛崢は苦笑した。
 いかに美しくとも、中身はあの怪童だぞ?と、そう思うと、切ない反面、少し愉快でもあった。まるで、それが林殊の考えた新手の悪戯ででもある気がしてくる。
 ただの悪戯であったなら、どんなによいか。
 梅嶺でのことはすべて一夜限りの悪夢で、あの変わり果てた姿も林殊のただの冗談であったなら。
 今さら何を、と衛崢は首をふった。
 しかし、梅長蘇の中身が、やんちゃで小賢しかった林殊であることは動かしようのない事実だ。
 あの美しい姿を隠れ蓑に、さてこれからどんな悪戯をやってのけてくれるのか。
 そう思うと、いくらか心が浮き立った。
 かつては林殊のやんちゃぶりを諌める立場だったが、今日からはその悪戯にとことんつきあいたいと衛崢は思う。
 赤焔軍の少帥・林殊が、名を変え、姿を変えて江湖の主となり、都へ戻って悪を凝らし、世を正す。なんとも奇想天外で痛快な筋書きではないか。
 何年かかっても、あの林殊ならば必ずやり遂げよう。
 胸が、高鳴る。

 ―――生きていて、よかった。
 
 このとき、衛崢は心からそう思った。





 
 
     **ご感想は、こちらの掲示板へ**
スポンサーサイト

もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 琅琊榜
もくじ  3kaku_s_L.png 東離劍遊紀
もくじ  3kaku_s_L.png 古剣奇譚
【蝉蜕26 (『琅琊榜』 #54以降)】へ  【母亲 (『琅琊榜』)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【蝉蜕26 (『琅琊榜』 #54以降)】へ
  • 【母亲 (『琅琊榜』)】へ