琅琊榜

月色 ( 『琅琊榜』 #54)

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ちょっと今朝から話題になった『蘇藺』!
藺蘇でなくて蘇藺!
自分でも書いてみようと思って手をつけたものの・・・・・
うーん、やっぱり何かうまくいかないww
きっとこれっきりだな(笑)。

 あの藺晨が。
 梅長蘇は、その日ずっとぼんやりして過ごした。
 今朝までの高揚した気分は、すでにない。
 あんな顔をされるとは、思いもよらなかった。
 止められるのは想定内であったが、いつものようにしぶしぶ承知してくれると思っていたのだ。まさかあれほど激昂して、抵抗を示すとは。
 本気で、止めようとしていた。本気で、この身を案じてくれている。
 いや、知らなかったわけではない。今に始まったことではないのだ。いつも 藺晨は自分を案じてくれていた。
 だが。
 賢く、度量も広い藺晨は、いつもほんの少し渋い顔をして見せるだけで、あとは大抵、軽口の応酬をしてやり過ごす。こちらの出した答えを、つまらぬ感傷で覆そうとするほど、藺晨は愚かではない。その点においては、藺晨は景琰や霓凰より遥かに与しやすい相手であった。それなのに、である。
 日頃の余裕など、微塵もなかった。あんな藺晨を見たのは初めてだ。
 林殊など知らぬと言われた。
 (わたしはずっと、林殊であったものを)
 梅長蘇とは、仮初めの衣のようなものだ。わずらわしいその衣を、ようやく脱ぎ捨てる好機がやってきたというのに。藺晨はそれを喜んではくれぬのだ。
 これまでの藺晨の尽力は、それでは林殊ではなく、梅長蘇に向けられたものであったのか。
 梅長蘇は深い溜め息をついた。
 自分に都合のよいように思い込んでいたのだ。 藺晨は、父の無二の友であった老閣主の子である。当然、林殊の志に感じ入って力を貸してくれているものとばかり思っていた。
 無論、感謝はしている。だが、つい甘えてきたのだ。林殊として。
 今さら、林殊など知らぬと言われても、これまでの歳月の渠の奉仕を、返すこととてできはせぬ。
 そして。
 林殊を知らぬと言いながら。それでも梅長蘇という仮初めの衣のために、更に力を貸してくれようとしている。あの、自由を愛する江湖の男が、従軍するというのだ。この自分のために。
 (藺晨―――)
 なんという情の篤さか。
 その情に、梅長蘇は報いるすべを持たぬ。
 遠ざかる藺晨の背に、かける言葉さえなかった。
 


 
 夕餉の席で、藺晨はゆったりと落ち着いていた。
 渋面を作るでもなく、かといって無暗に騒ぐでもなく、淡々と当たり前に飲み食いする、そんな藺晨は却って珍しかった。

 「藺晨?」
 そろそろ寝支度をしようかという頃合いになって、月を見上げて回廊に佇む藺晨を見つけた。
 腕組みしたまま、顔だけ振り向いた藺晨が、ゆるりとほほ笑む。
 いつもは上っ調子でふざけてばかりの男だが、こうして静かに微笑んでいると思いのほか美しい。
 「見ろ。月が今夜は手に届くようだ」
 蒼白くけむる満月を、藺晨は顎で示す。
 梅長蘇はそちらへちらりと目を向けてから、わずかばかり眉を寄せた。
 「藺晨。すまなかった」
 そう言葉にすると、藺晨は今度は振り返らずに、軽く笑った。
 「どうせ考えは変わらぬのだろう? ならば気安く詫びるものではない」
 梅長蘇は少し目を伏せた。
 藺晨のいう通りだ。自分はもう決めてしまった。藺晨の望むようには出来ぬ。
 「―――わたしは自分で決めたことだ。悔いはせぬ。だが、お前は・・・・・・」
 藺晨は微かに鼻で笑ったようだった。
 「わたしとて既に肚は括った。おまえに気遣われる筋合いはない」
 そう言って、藺晨は月から視線を庭へ落とした。
 「落ち着いているだろう? 今のわたしは」
 この男は、不安な時ほどはしゃいで見せるのだ、と琅琊閣や江左盟の主だった者は皆知っている。今宵の藺晨には、そんな様子は全くない。
 わざと。
 いつもなら不安を隠すためにふざけて見せるところを、今夜はわざと、それを逆手にとっているのではないか。そんな気がして、梅長蘇は溜息をつく。
 一歩、二歩、ゆっくりと藺晨の背へ近づいて、長蘇は白い袂を緩く掴んだ。
 無理をするな、とは言ってやれなかった。無理をさせているのは、ほかならぬ自分だ。
 正直、藺晨が共に戦地へと赴いてくれるなら、これほど有り難いことはない。
 結局は。我を通してしまうのだ、自分は。先のない病人の望みだと思えば、藺晨に否やの言えるはずもない。これまでもさんざん、それを利用してきたのではないか。当たり前のごとくに。
 どれほど、藺晨の想いを踏みにじってきたのだろう、と梅長蘇は初めて思い至った。
 不意に、苛立ちが突きあげる。自分に対してなのか、藺晨に対してなのか、長蘇自身にもよくわからない。ただ、矢も盾もたまらぬ気持ちにさせられた。
 袂を握っていた手を開くと、梅長蘇は藺晨の腕を強く掴んだ。
 「藺晨」
 腕を強く引くと、藺晨は少し驚いたような顔をして腕組みを解く。 
 「なんだ、急に」
 ようやく身体ごと振り返った藺晨の唇に、長蘇は素早く口づけていた。
 「ッ?」
 息をつめた藺晨の身体が強張る。その身体を、梅長蘇は力いっぱい抱きしめた。
 「―――っ・・・・・・」
 苦し気に、藺晨の吐息が唇の端から洩れる。藺晨の両手は、梅長蘇の両腕を掴もうとして、だが幾分ためらう様子でそれを出来ずにいる。自分の身体を気遣ってくれているのだと、すぐにわかった。強く腕を掴むことさえ、藺晨は恐れている。
 梅長蘇はわずかに口を開き、舌先で藺晨の唇をなぞった。強張っていた藺晨の身体からほどよく力が抜ける。その手が長蘇の腕に緩く添えられ、それからまさぐるように背中へと回ってくる。
 舌は、既に藺晨の唇の間に押し入って、その口腔内を蠢いていた。梅長蘇は、膝頭を藺晨の両脚の間へ割り入れる。
 藺晨が、小さく呻いた。
 わかっていたのだ、ほんとうは。
 ずっと昔から。
 藺晨がこの自分を憎からず思っていたことくらい。
 随分、ひどい仕打ちをしてきたものだと思う。
 藺晨が何でも言うことを聞いてくれるのをよいことに、甘え、無理難題を言い、いいように使いだてしてきた。
 右手をそろそろと、藺晨の股間へ下ろす。衣の上から、きゅっ、と一物を掴むと、藺晨の身体がびくんと震え、次の瞬間にはその膝から力が抜けていた。
 梅長蘇の細腕では、膝の砕けた藺晨の腰を抱きとめることもかなわない。共に回廊にへたりこむと、梅長蘇は更に右手の五指を巧みに操って、衣の裾を分け入った。
 いまだその唇を深く合わせたままで、舌を淫らに絡ませる。梅長蘇は顔の角度をせわしく変えながら、藺晨の唇を強く貪った。
 藺晨の唇からは甘やかな吐息と呻きが漏れ、背中に回された藺晨の手が、行き場を求めて蠢いた。股間の一物は既に長蘇の手の中で気の毒なほど硬く膨らんで、その欲を放ちたがっている。
 もっと深く舌を差し入れ、もっと強く唇を吸ってやりたい、そう思った刹那。
 ―――激しい咳が、こみ上げた。
 弾かれたように藺晨から身体を離し、梅長蘇は身を折って咳き込んだ。
 「長蘇!」
 狼狽えた藺晨の声にも応じることが出来ず、梅長蘇は激しく咳き込み、血を吐いた。
 藺晨の手が、背をさすってくれる。
 可哀想に。
 あれほど怒張していたものを。あんな中途で放り出されては、藺晨の方が自分よりよほど苦しかろうと思われた。
 息を整えながら、長蘇はようよう顔を上げて藺晨を見た。
 気遣わし気な、その顔。
 今日はいつもの軽口さえ飛び出さぬ。
 長蘇は少し微笑った。
 「・・・・・・藺晨」
 そう呼ぶと、藺晨は少し眉を開いて、顔を寄せてきた。
 「なんだ?」
 藺晨の指が、自分の口元についた血を拭ってくれる。その手を掴むと、長蘇は血濡れた指に軽く歯を立てた。
 この指。
 これまで幾度となく自分の脈を診、穴道を突いてきた指だ。この手に救われながら、なにひとつ報いてこなかった。
 そして、恐らくこの先も。
 報いてやることは出来ない。
 「藺晨―――」
 長蘇は目を上げ、今一度、友の名を呼んだ。
 「北の地で・・・・・・」
 上目づかいに藺晨の顔を見やり、長蘇は微笑む。
 「わたしを、守れ」
 居丈高に、そう言う。
 どうせ報いることが出来ぬなら。
 精一杯我儘を通そう、と梅長蘇は思った。
 これまで尽くしてくれた年月を、互いに悔いることのないように。
 (おまえのおかげで、わたしは思うままに生きてこられたのだ)
 藺晨の目が、ふわりと細められた。
 「言われずとも、そうする」
 笑み崩れた顔は、あまりにも甘く、優しい。

 あと、すこし。
 あと少しだけ。
 甘えさせてくれ、と梅長蘇は思う。

 もう一度、梅長蘇は腕を伸ばして藺晨の身体を抱き寄せた。

 蒼い月の光が、互いの心を裸にしている。

 朝になればきっと、
 藺晨は常の如くに皮肉な笑みを浮かべて、憎まれ口をたたくに違いない。自分もまた。

 今宵一夜は。
 素顔のままで。

 梅長蘇は、友の身体を強く抱きしめた。
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