琅琊榜

琅琊榜西遊記 13 (『琅琊榜』)

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ついに完結。いやはやこの一週間、愉しく遊ばせていただきました~♡ 
お付き合いくださった皆様、ありがとうございました!!


 「わたしが必ず救いに来ると、信じていたであろう!?」
 如意棒と大剣が火花を散らす中、悟空がそう叫んだ。
 三蔵はいやいやをするようにかぶりを振る。
 「……信じてなどおらぬ。―――顔も見たくないと、そう申したはず……」
 「まことのことを言え!」
 舞台にこだました悟空の声が、雷鳴のように梅長蘇を撃つ―――。
 そんな台詞は、台本にはなかった―――。そう思いながら、梅長蘇は弱々しく答えた。
 「―――まことだ……」
 如意棒が、黄袍怪の胸を突く。げふっ、と黄袍怪が血を吐いてよろめいた。
 「嘘をつくな!」
と悟空がまた台本にない台詞を怒鳴りつけて、三蔵を振り返る。
 「……嘘ではない」
 梅長蘇は恐る恐るそう答えた。
 立ち直った黄袍怪が再び大剣を振りかぶる前に、悟空の如意棒がこの妖怪の腹を強かに突き、肩を激しく打ち付けていた。
 振り返った悟空が、三蔵を睨みつける。
 「―――会いたかったと言え!」
 「……会いたくなど……」
 縛められたまま身体を起こそうとしながら、梅長蘇はもう悟空のほうを見ることができない。
 「なぜ、―――なにも話してはくれなかったのだ」
 悟空の声が震え―――、梅長蘇は眉をきつく寄せて、目を閉じた。
 「なぜ、黙っていたのだ。―――小殊」
 嗚呼、と梅長蘇はうなだれた。
 「なぜ! 打ち明けてくれなかったのだ! 小殊であると!」
 景琰が叫び、観客たちにざわめきが走る。
 「景琰のやつめ。何を申しておるのだ。気でも違ったか」
 皇帝が身を乗り出した。
 「―――小殊。認めよ、林殊であると」
 「殿下……」
 景琰の手が、縄を打たれたままの梅長蘇の両肩を掴む。
 「お前は我が従弟・林殊だ。そうであろう?」
 ひそひそと、客席でささやきが交わされる。
 「林少帥は、先年の大渝との戦で戦死なさったはずでは」
 「しかし、遺体は戻っておらぬはず」
 「されど、あの戦はひどい有り様で、さしもの赤焔軍七万も全滅したと聞く。……いかに怪童とて、とても生き残ってなど」
 「それに面差しがまるで違う。全くの別人ではないか」
 「殿下は一体どうなさったというのだ」
 重臣たちのささやきを聞きながら、皇帝もまた立ち上がったまま、困惑して舞台に見入っていた。 
 「―――なぜ黙っていたのだ。どうして素性を偽ったりした」
 詰め寄られて、梅長蘇は堅く身をこわばらせていた。
 景琰の真剣なまなざしに射すくめられて目を逸らすこともならず、ようやく声を絞り出す。
 「―――こんな姿で……、言えるはずがない……」
 「……小殊」
 梅長蘇の眼から、唐突に堰を切ったように涙が溢れ出した。
 「長い間、―――死の淵をさまよったのだ。ようやく命をとりとめてみれば、林殊は既に亡き者として扱われ、しかも己自身はこんな変わり果てた姿で……、どうして名乗ることなどできよう」
 梅長蘇は既に嗚咽していた。
 「名乗ることは出来ずとも、殿下に仕えることこそがわたしの使命だと……、そう思えばこそ、都へ戻ってきたのだ。名も身分も、関係ない。殿下にお仕えして、おそばでお支えできさえすればそれでよいと……」
 「なにが殿下だ!」
 景琰が怒鳴った。怒鳴って、そして、梅長蘇の身体を抱きしめる。

 あの日。
 二度目の舞台を終えて倒れた梅長蘇の枕元に付き添った、あの夜。
 「……景琰」
と。
 譫言で、梅長蘇は、そう呼んだ。
 か細い声で、しきりに譫言を繰り返す梅長蘇の口元へ、景琰は耳を寄せたのだ。
 「……鳩の卵……くらいで、よい……」
 そう言って、梅長蘇は幸せそうに微笑んだ。
 「……東海の、真珠……、待っているから……、景琰……」
 景琰、景琰、と、そう何度も何度も、梅長蘇は繰り返した。
 
 「小殊……。約束した真珠だ。遅くなったが、貰ってくれるか」
 懐から出した小箱を開けて見せる。
 「景琰……」
 約束どおり鳩の卵ほどの真珠を、ようやくこの日、景琰は林殊に贈ることが出来たのだ。
 林殊は少し照れたように微笑んだ。
 「―――縄を解いてもらえぬか。これでは真珠を受け取ることも出来ぬ」
 景琰は苦笑いして、林殊の戒めを解く。
 林殊は自由になった両腕をいっぱいに伸ばすと、景琰の背中へと回した。
 「信じてくれるのだな。この変わり果てた身を、林殊であると」
 「無論だ。林殊。―――回来了……」
 堅く抱き合うふたりに、観客たちはしわぶきひとつ、物音をたてなかった。

 やがて顔を上げた景琰は、林殊の身体を抱き寄せたまま、桟敷席に立ち尽くしている皇帝を振り仰いだ。
 「父上。―――お聞きの通りです」
 唐突にそう言われて、皇帝は狼狽する。
 「この者は、十三年前に命を落としたとされる林殊です。竹馬の友たるわたしが言うのですから、間違いはありません」
 「しかし、景琰、顔が……。小殊はわしにとっても可愛い甥だが、この者の顔は小殊とは似ても似つかぬではないか」
 困惑する皇帝に、景琰は答えた。
 「それについては、小殊を蝕んだ病について、琅琊閣閣主どのや我が母、そして皇宮の侍医からも充分に説明を受け、納得いたしました。父上にも、後程お聞きいただければと―――」
 「いや、しかし―――」
 尚も歯切れの悪い皇帝を、傍らからぴしゃりと窘める声がした。
 「しかしも案山子もないぞえ!」
 「祖母上―――」
 太皇太后が、眉を逆立てていた。
 「わたしが初めから小殊だと言うておるに、誰も耳を貸さなんだのではないか。この慮外者めが!」
 皇帝を睨みつけて置いてから、太皇太后は舞台へと向き直った。
 「小殊や―――、今日の舞台もよう出来たよう出来た」
 「お婆様……」
 林殊は少し恥ずかし気に微笑んで目を伏せた。
 「父上。小殊は病がちの身、どうかこの舞台、此度で最後とさせていただきたい」
 きっぱりと言い放った景琰に、皇帝は困ったような顔をする。
 「そ、それは……、ちと勿体ないのう……」
 名残惜し気な様子の皇帝に、すかさず誉王が声をかける。
 「父上! 芝居をお楽しみになりたければ、来月からはこの景桓が座長となって演し物を御披露いたしましょう!」
 「む……、うむ……」
 どこか納得のゆかぬ様子ながらも、皇帝はしぶしぶうなづいた。皇后が満足げに誉王と微笑みかわす。
 「今後、小殊は我が屋敷にて預かり、養生に努めさせます」
 「景琰……」
 すこし驚いて、林殊は景琰の顔を見上げた。皇帝も眉を顰める。
 「しかしそなた、小殊には蘇宅もあることじゃし、手狭というなら林府に手を入れて……。何もそちの屋敷に……」
 しかし、景琰は皇帝の煮え切らぬ態度に、凜として言い放ったのである。
 「ならぬと仰せなら、こう致しましょう! この景琰、林殊を娶りたいと存じます!」
 刹那、客席は阿鼻叫喚の巷と化した。
 「で、殿下は今、なんておっしゃいましたの?」
 「めめめめ、め、娶りたい、ですって!?」
 「あああ、なんて男らしい」
 どよめきが少し落ち着くのを待って、景琰が言う。
 「この真珠は、小殊への婚約の印と致したく―――」
 皇帝に向かって、真珠の入った小箱を高く掲げて見せた。
 「いや、その、景琰……」
 皇帝は言い淀んだが。
 「これはよい! 景琰、でかしたぞよ! この婆が許す!」
 太皇太后がどんと胸を叩いた。 
 景琰はにっこりと微笑み返す。
 「ありがとうございます、お婆様。お婆様のお許しがあれば百人力です」
 「今日からは誰憚ることもない夫婦同士と思うがよい。祝いにあとで婆が菓子を進ぜようほどに、ふたり揃って遊びにおいで」
 景琰と林殊は顔を見合わせ、少しはにかんだ笑みを交わし合った。
 「恭喜!」
と観客のひとりが叫ぶ。
 「真的恭喜了!」
 恭喜恭喜、祝贺你们!とあちこちから声が上がり、忽ち客席は祝いの言葉で満ちた。
 「やれやれ、『西遊記の全て』も第三巻で終わりということか。総集編でも出してもう一儲けさせてもらうとしよう」
 舞台袖で、藺晨は苦笑し、ゆっくりと踵を返す。
 打ちすえられた夏江が長々と伸びているそばで、景琰と林殊は今、ようやく幸せの絶頂にあった。


――― 琅琊榜西遊記 完 ―――


 そして物語は、『人妻』 (http://rouyabou.blog.fc2.com/blog-entry-87.html)へと続く。





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~ Comment ~

とうとう終わっちゃった…

遥華さま

琅琊榜版西遊記、完結おめでとうございます~!
舞台から身バレシーン、そして太皇太后のグッジョブまでのすんごい力技に、まるごと持って行かれました~。
そして「人妻」に続くんですね、す~ご~い~~~!!!!!
恭喜了~~~!!
これは、ぜひ挿絵つけていただいて、うっすい本で読みたいなあ。

私も、金陵腐女子の皆さんと、客席でどよめきたかった…。
ええ思い出します、ウォレスさんの結婚発表の日…胡歌さんを思って、やけ酒してたのは、ワタクシもです。
あの日は、ネットでも阿鼻叫喚の渦でしたものね…。
今夜は、藺晨を思って、寝酒します(笑)

私は基本的に藺蘇で、時々靖蘇をつまみ食い。
次回作は、ぜひ藺蘇でお願いいたします。
「空蝉」シリーズ、大好きです!

ツイネタからの一週間、遥華さんのおかげで、本当に楽しかったです!
毎晩「今夜も続きが読める…」と思えば、介護生活にもハリが出ますっ。
日用品の買い物以外、ほとんど外出しないので、着付け教室のほかは、気晴らしも少ないのですが、遥華さんの作品に出合えて、本当に幸せです。
心の潤いを有難うございます<m(__)m>

次回作も楽しみにお待ちしております。

>>Rintzuさん

一週間のおつきあい、本当にありがとうございましたw
勢いで書いたので、あちこち破綻もあると思いますが、
これはまあこんな感じでいいやと思っていますwww
緻密さのかけらもない性格ですww

「空蝉」も続きを書きたいのですが、
今回は『西遊記』『人妻』の世界観の中での藺循でいきますw

『西遊記』ほどは飛ばしていきませんが、ぼちぼち書きますので
またお付き合いくださいませ♡
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