琅琊榜

琅琊榜西遊記 12 (『琅琊榜』)

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琅琊榜西遊記は全13話となりそうです。

 「おおっ、景睿だ! 景睿!」
 客席から豫津が手を叩いた。
 「ほう。さすがは蕭公子、舞台映えいたしますなあ」
 周りから誉められて莅陽長公主が嬉し気に微笑む。
 景睿演じる美貌の青年が、宮羽を抱き寄せて酒を飲んでいた。
 その前には捕らえられた三蔵法師の姿がある。
 景睿がするりと屏風の影へ姿を隠すと、かわりに現れたのは夏江が扮する醜悪な黄袍怪であった。
 「なんだ、景睿の出番はあれだけか?」
 穆青がつまらなそうに言う。
 「予定にはなかったのだが、宮羽どのが夏江に抱かれるのをいやがったのだそうだ」
 「それで景睿か」
 「そもそも原作でも、この妖怪は美しい青年に化けて人々を騙す妖怪らしいからな。さすがに夏首尊では、いかに舞台化粧を施したとて、美貌の若者に化けるのは難しかろう」
 「もっともだ」
 ふたりが笑いあう内に、舞台は花果山へと場面を移している。

 大岩の上で、悟空はぼんやり寝転がっていた。
 ふと気配を感じて、傍らの岩陰へ目をやる。
 ぴょこん、と玉龍が顔を出した。
 「何をしに来た。わたしと居ると師父に叱られるぞ」
 ふいと顔を背けてから、悟空は溜息をついた。
 「ああ、もう師父ではないのだったな」
 玉龍はぴょんと跳んで、悟空の傍にしゃがんだ。
 「助けて」
 玉龍が、悟空の顔を覗き込む。
 「なに?」
 そう尋ねると。
 「師父が、捕まった。悪いやつに」
 悟空は跳ね起きた。
 「誰に捕まったと?」
 「黄袍怪だって。師父が、食べられる」
 思わず立ち上がりかけて、悟空は眉を寄せた。
 「―――知らん。わたしは破門された身だ。関わりない」
 どんと胡坐をかいた悟空に、玉龍はすこし首を傾げてしょんぼりした。
 「師父、―――言ってた」
 玉龍から顔を背けていた悟空だが、つい問い返さずにはいられない。
 「……何を?」
 「一緒にいたら、―――悟空、観音様に叱られる」
 え? と悟空は玉龍を見返った。
 「観音様に叱られたら、猿、五行山に閉じ込められる」
 「……どういうことだ?」
 混乱して、悟空は玉龍に詰め寄る。
 「―――わからない」
 玉龍は困ったように首を振った。すると。
 「おまえの為に、師父は愛想尽かしをしたということだ」
 そう声がして、空から舞い降りた姿がある。
 「悟浄」
 「―――師父は、お前に目をかけすぎると、観世音菩薩に咎められたようだ。猿めが修行の妨げになるなら、五行山に閉じ込めるとな」
 「観世音菩薩が……」
 悟空は目を瞠った。
 「師父は、お前から自由を奪うに忍びなかったのだろう」
 初めて聞かされる話に、悟空は呆然とし、途方に暮れている。
 「わかったなら、とっとと行け」
と、悟浄が叱咤した。
 だが。
 「い、……いやだ」
 悟空は頑なにかぶりを振った。
 舞台の袖で、おや、と梅長蘇は首を傾げた。そんな台詞が、台本にあっただろうかと。
 「このくそ猿が、何を呆けたことを言っておる」
 藺晨はごく当たり前のように台詞を返している。自分が立ち稽古に出られなかった間に、台本に変更があったようだ、と合点はしたものの、なんとなく胸がざわついた。
 「そんな勝手な坊主なぞ、助けにゆくものか」
 悟空が言った。
 「―――勝手にわたしの身を案じて、何も話さず、わたしの考えを聞きもせず、ひとりで何もかも飲み込んで、そんな勝手な坊主の為になど……」
 涙にくれる悟空の声を遺して、舞台は真っ暗になった。



   * * * 



 「坊主よ。そなたの肉は、我ら妖怪にとって不老不死の妙薬となると聞く。大して食いごたえもなさそうだが」
 黄袍怪が、縄で縛られた三蔵法師の顔をしげしげと見た。  
 三蔵は、静かな面持ちで黄袍怪を見返している。
 「命乞いをせぬのか?」
 黄袍怪の手が、三蔵の顎を鷲掴みにした。
 客席からざわめきが漏れる。そのざわめきを心地よさげに聞きながら、黄袍怪はにやりとした。
 「そなたには凄腕の猿がついていると聞いていたが、一向に助けに来ぬではないか。猿にさえ見捨てられるとは、哀れな坊主よ」
 黄袍怪の指は、三蔵の頬に食い込んでいる。
 「いや、師の恩を忘れる猿めが阿呆なのか? 所詮は恩知らずの畜生よな」
 「……悟空は、そのような情の薄い猿ではない」
 顎を捕らえられて充分に開くこともままならぬ口から、梅長蘇はようやく台詞を絞り出した。
 「ならば、なぜ来ぬ? 泣いて呼んでみてはどうだ?」
 三蔵が黄袍怪を睨む。
 「なんだ、その目は? 己ばかりが清く正しく賢いとでも?」
 そう言うなり、黄袍怪の大きな手が、ぴしゃりと三蔵の頬を打った。
 客席の女性たちが悲鳴を上げる。
 老臣らもざわめいた。
 「大きな音がいたしましたが、まさか本当に蘇先生の頬を打ったのでは」
 「まさか。お芝居ですよ。夏首尊ほどの力で、あの弱々しい蘇先生をまことに打ったりするものですか。いや、さすが夏首尊、いかにも本当らしく見えましたが」
 倒れた三蔵の胸倉を、ぐいと掴んで黄袍怪は引き起こす。
 「さあ、早く助けを求めてみよ!」
 無理矢理立ち上がらせた三蔵の背を、書き割りの柱へどすんと押し付ける。安普請の大道具はゆらゆらと揺れた。
 ぐいぐいと喉を締めあげられ、梅長蘇は眉を顰める。
 (夏江め、本気でわたしを痛めつけにかかっているな)
 芝居も何もあったものではない。案の定、夏江が耳元で囁いた。
 「蘇哲よ、貴様のような小賢しい謀士は、前々から目障りであったのだ。さっさと都から消え失せよ。靖王など物の数ではない。太子の位は誉王にもたらされるべきものだ」
 黄袍怪が、更に三蔵の頬を打とうとしたときである。
 「おのれ醜い妖怪め! か弱い坊主をいたぶることしか出来ぬのか!」
 朗々たる声を響かせ、孫悟空が舞台へと踊り込んできた。
 客席からは、割れんばかりの拍手喝采が湧きおこる。
 「貴様が坊主の腰巾着の猿めか!」
 黄袍怪が三蔵の身体を振り捨てた。再び倒れ込んだ梅長蘇は、不意に息が自由になって激しく咳き込む。それでも悟空を振り仰いで、懸命に台詞を吐く。
 「―――悟空。なにゆえ、ここへ……」
 「助けに来たのだ! 何が悪い!」
 如意棒を手に、黄袍怪と睨み合いながら、悟空が怒鳴った。間合いをはかっていた黄袍怪が、悟空めがけて大剣を振り下ろしたが、如意棒が難なくそれを受け止める。 
 「――――助けなど、呼んではおらぬ!」
 怒鳴り返してきた三蔵に、悟空もまた、黄袍怪と激しく撃ち合いながら言い返した。 
 「わたしが助けたかっただけだ! 坊主の指図など受けぬ!」
 右へ左へ飛び交っては妖怪と撃ち合う悟空の姿を目で追いながら、三蔵は叫んだ。 
 「悟空よ! 頼むからわたしに構うな!」
 如意棒がまた、大剣を跳ねのける。
 「玄奘三蔵!」
と、さらなる黄袍怪鋭い一撃をよけながら悟空が叫ぶ。
 「まことは、待っていたのであろう?」
 その言葉に、三蔵が目を見開いた。
 「……待ってなど……」
 「わたしが必ず救いに来ると、信じていたであろう?」
 如意棒と大剣が、また火花を散らす。
 「……信じてなどおらぬ。―――顔も見たくないと、そう申したはず……」
 「まことのことを言え!」
 舞台にこだました悟空の声が、雷鳴のように梅長蘇を撃った―――。




   * * *




―――次回最終回―――
、 

 
 長らくご愛読いただきました『琅琊榜西遊記』も次回で最終話となります。
 三蔵、悟空主従の運命やいかに!
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~ Comment ~

次が最終回なんて…

遥華さま

100本越え、おめでとうございます~!
今夜も2本立てで嬉しいなあっ。

やっぱり、冬姐に白骨夫人は無理でしたねえ(苦笑)。
私としては、越貴妃に演じていただきたかった…。
あの、菩薩の静ママは、悟空×三蔵(=靖蘇)を応援してるのかしてないのか、良くワカリマセンのですが、梁帝と越貴妃の焼きもちの掛け合いが、なかなか楽しいですね。
とにかく、舞台を見ている金陵腐女子の皆さんが、あまりに嬉しそうなので、客席に私も混ざりたいです。

夏江もですが、演者も作者の違う台本も、私情入りまくりのこの舞台、終幕はどのようになるのでしょ。
藺晨は、このまま指をくわえて見てるのか?
景琰の台本は、ラブラブなラストまで持って行くのか?
そして、白鳩印の「西遊記本」の売れ行きは!?(笑)

明日も楽しみにお待ちしております~。

>>Rintzuさん

一週間、お騒がせいたしました西遊記も、これにて一巻の終わりとなりましたw
書いてる本人は面白かったのですが、はてさて・・・・www

物語は、『人妻』へとつながりますが、
まだこの先も実は・・・・・・www

それはまたおいおいと。
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